Dementia・5

そう。今、俺とアダムは法律を犯しているんだ。それはのちのち話すとして、俺がゾンビになった経緯を話そうと思う。あれは夜の街にアダムと二人で食事をしに出かけたときだった。夜の街は平和だった。二人で入ったバーでカウンターに座った。カウンターから…

Dementia・4

ドーナルの日記から。日付は一ヶ月ほど空いている。 ハイチで死者が蘇ったのが一ヶ月前だった。あっと言う間にゾンビは世界に蔓延した。だが、世界情勢はそんなに変わらなかった。今もインターネットができているし、朝が来れば起きるし、夜が来れば寝る。隣…

Dementia・3

アダムの日記から。 一緒に住むようになって三日後に、ドーナルと初めてセックスをした。セックスは前からそんなに好きではなかったが、ドーナルに抱かれて大好きになってしまった。まさかこの年で・・・すごく恥ずかしいが、好きになったのだから仕方ない。…

Dementia・2

ドーナルの日記から。 アダムと初めて出逢ったとき、俺は運命だと思った。彼はきれいで、優しい男だった。珍しいほど控えめで、シャイだった。そこがかわいい。死ぬほどかわいいと思った。俺は彼を好きになった。いや。愛してしまった。撮影の最終日を逃した…

Dementia・1

アダムの日記から。日付は丁度一年前となっている。 僕とドーナルは映画の撮影で知り合った。あまり喋らなかったし、このまま関係性も取れずに終わるのだろうと思った。最終日に、真剣な面持ちでドーナルが僕の所へやってきた。僕はペットシッターさんから送…

アローン・7

先生に覆いかぶさっていたカートは、顔をあげるとにこりと笑った。口元は血まみれだ。得体の知れない肉の欠片がぶら下がっている。カートはそれを飲み込むと笑った。「君のためだよ」僕の髪の毛をなでて、カートは笑った。「すべてを忘れてしまった僕に、生…

Keep Your Dreams・5

ハックスは夢を見ていた。眠りが浅くて夢なんか見ることないのに。 ベッドの上には、裸の女が眠っている。 (イトウハツミだ・・・) 交際していた男に惨殺されたイトウハツミ。目を閉じていたハツミは、ハックスを向くと目を開けて笑った。豊満な胸。白く美…

Keep Your Dreams・4

「LSDって、死ぬ時と同じ感じがするの?」 レンが聞いてきたある夜、二人はベランダから外を眺めていた。弱い雨が降っていた。霧に近いそれは、ハックスの部屋から見える夜の街のネオンを、ぼんやりと浮かびあがらせいた。 「そうみたいだな。LSDは。皆言う…

Keep Your Dreams・3

「野菜が全然ない」 レンが呆れたような声をあげた。スーパーの野菜売り場は閑散としていた。売っている野菜は色が悪く、小さいものばかりで、値段も普段より倍になっていた。 ハックスはレンの背後で、スマートフォンをいじりながら、いいだろ。と言った。 …

Keep Your Dreams・2

「雨っすねぇ」 クラブのバーカウンターで並んで飲んでいたミタカが、ぽつりと呟いた。 「そうだな」 ハックスはマリファナの入った煙草をくわえて、火をつけた。平日の夜ということもあるのか、客はまばらだ。ドラッグが合法のこの土地のクラブは、ゴキゲン…

Keep Your Dreams・1

ずっと雨が降っている。 ハックスはぼんやりとベランダを見て思った。いつから雨が降っているのだろう。一週間ぐらいか?もしかして一ヶ月かも。 「桜が全然咲かないんだよ。この雨のせいで」 傍らで一緒に眠っていたレンが、ぽつりと呟いた。ハックスは何も…

天使と僕の美しき日々・7

マットはその日休みだった。オスカーに、だったらうちでアダムと夕飯を食べないか?と誘われた。その誘いが嬉しかった。ありがとう。とマットはその誘いを心よく受けた。 (アダムが働いているところが見れるな) マットは浮き浮きとした気持ちでオスカーの…

天使と僕の美しき日々・6

「マット。お前今付き合ってる人いるだろ」 閉店後。マットはジョゼフに言われて、カップを拭いている手を止めた。テーブルを拭いていたボマーも手を止めて、笑顔を浮かべた。 「え?いつぶり?いいねぇ。どんな人?」 「確か丁度一年ぶりぐらいじゃないか?…

天使と僕の美しき日々・5

「僕は天使でした。百年以上この街の移り変わりを見ていました。主な仕事は死にゆく人間を天国に導くことです。あなたと出逢ってあなたを好きになって、人間になりました」 マットはじっと、自分のベッドで眠るアダムを見つめていた。 家に連れてきて、アダ…

天使と僕の美しき日々・4

アダムは一人、ビルの屋上の淵に座っていた。じっと遠くを見つめている。 昼間食べたシナモンドーナッツの味も、コーヒーの味も覚えていない。忘れてしまった。天使に戻ると全て忘れてしまう。 また来てください。 マットの笑顔を思い出す。胸の辺りをアダム…

天使と僕の美しき日々・3

「おい・・・ヤバイぞ」 ジョゼフの言葉に、マットは笑った。 「お前、毎日ヤバイって言ってるからなぁ・・・」 「いいから来いって」 ジョゼフはマットの腕を掴んで、客席に視線をやった。 ここはジョゼフとマットが勤めるカフェだ。客席はカウンターに五席…

天使と僕の美しき日々・2

アダムは天使だ。気づいたらこの土地で立っていた。どれぐらい前からここにいるのか分からない。ただ、何もなかったこの土地に人が住み始め、ビルが建ち、人がどんどん増えていく様子を見てきたから、かなり前からいるのだと思う。 アダムの仕事は、先ほどの…

天使と僕の美しき日々・1

少女は、たった十年の生涯を閉じようとしていた。彼女は今、病院の白いベッドの上で横たわっていた。自力で呼吸できなくなった彼女の口には呼吸器がつけられていた。どんどん心音が弱くなっていく。 母親と父親は、涙を流し彼女にすがりついている。 彼女は…

December・6

座り心地の悪いピックアップトラックの助手席で、ドーナルはさらに居心地の悪い思いをしていた。運転しているアダムの横顔をちらりと見た。不機嫌そうだ。けれどもハンドルを握るその指はぱたぱたと落ち着きなく動いている。ここから家は五分ぐらいだと言わ…

December・5

その日は仕事が休みで、アダムは町に買い物に出掛けようとハイウェイをピックアップトラックで走っていた。時刻は夕方になろうとしていた。殺したばかりの女もいるししばらく殺さなくてもいい。ヒッチハイカーは無視しよう。アダムは一人そう思っていた。 地…

December・4

ドーナルは生まれながらにして、選ばれし人間だった。祖父はアイルランドからの移民で、アメリカで貿易会社を始めた。貿易業は大成功を納め、彼は一代で財を築いた。だがその矢先、祖父は自分の屋敷から飛び降り自殺をした。ドーナルの父親である息子を残し…

December・3

「こんばんは」 女が顔をあげると、赤い髪の毛をした男が微笑んでいた。女も笑った。この高級クラブにいるということは、この男も「それなり」の男なのだ。女は自分の美しさや、身分に自信があったので、自分にふさわしい男としか付き合わなかった。女も笑み…

December・2

アダムは生まれる前から祝福されない子供だった。母親のオーガスタは元々情緒不安定で、鬱の傾。向がある女だった。若いうちから抗鬱剤を服用していた。ただ、美しかった。テキサスの田舎にはそぐわないブルネットの美しい髪の毛のオーガスタは、男たちの劣…

December・1

腹が減った。 毎朝アダムは空腹を覚えて目が覚める。健康的だな。と感心する。大きな欠伸をして、ベッドから起き上がる。染みだらけの穴だらけのカーテンから朝日が差し込む。温度計つきの時計を見ると既に25度。今日も暑くなりそうだ。トランクスだけの姿で…

しあわせ家族計画

「ヴェノム。お前には親とかそういう類いのものっているのか」 ある夜。エディが仕事をしながら聞いてきた。ヴェノムは、いや。と頭を横に振った。 「いいや。俺にはそういうものはいない。俺は最初からこうだった」 エディは笑って、パソコンの操作をやめた…

悦楽共犯者・3

「 何だ。これは」ミタカのデスクの上に置いてある小さな小瓶を俺は手に取った。中には黒い液体。きらきらと光るラメが見える。あぁ。と俺は気付いた。「 将軍。知らないんですか?それはマニキュアですよ」ミタカは無自覚に俺を微妙に苛立たせる言い方をす…

悦楽共犯者・2

「 サーを愚弄する者がいました」 ファズマの報告は、まるで日常会話のようだった。俺はふと手を止めて、向かいに立つファズマを見た。ファズマは表情を変えずにこちらを見ていた。俺はデスクの上で手を組むと聞いた。 「 なんて愚弄していた?」 さっ。とフ…

悦楽共犯者・1

私は指導者として君臨している。この世界を支配するために。私は騎士団長になるべくして生まれてきたのだ。余計な物など何もいらない。「女なんか殺されるわけにはいかねえよ」私はフォースの力で、そう言った敵の首をへし折ってやった。敵はばたりと倒れた…

はちゃめちゃパーティーナイト・4

モーテルの部屋にやってきたブレンドン。名前も知らないハンサムな男にしなだれかかって歩くのは最高だ。 「 さぁ。入って」 「 ありがとう」 扉を開ける男に促されて中に入った。どこにでもあるようなモーテルの部屋。だがベッドの上の壁にかかっている「 …

はちゃめちゃパーティーナイト・3

クラブでかかっていたのは、ミッキーミナージュの「スターシップ」だった。あ!とブレンドンは声をあげた。 「 僕、これ大好きなんだよね。行こう」 ブレンドンは男の手を取る。男は首を横に振って笑った。 「 踊りはあんまり得意じゃなくて」 ブレンドンの…