Dementia・1

アダムの日記から。日付は丁度一年前となっている。

僕とドーナルは映画の撮影で知り合った。あまり喋らなかったし、このまま関係性も取れずに終わるのだろうと思った。
最終日に、真剣な面持ちでドーナルが僕の所へやってきた。僕はペットシッターさんから送られてきたムースの動画に、にやにやと笑って完全に気を緩めていたから、かっこいいドーナルの前で間抜けな顔を晒していた。
「アダム。ちょっといいかな」
「あい?」
返事まで間抜けだった。ドーナルはにこりともせずに言った。
「話があるからちょっと来てほしい」
「はい」
僕は真剣なドーナルにつられて、真顔で返した。人気のないスタジオの物陰まで連れて行かれた。僕は頭の中で考えた。ドーナルは僕のことが気に食わなくて、ボコボコに殴るのだろうか。嫌だな・・・変な妄想をしていると、ドーナルはにこりともせずに言った。
「君が好きだ」
「はぁ・・・・って、何ですか???」
ドーナルは真顔のまま、顔をどんどん赤くしていく。彼は色白だから赤くなるとすぐに分かる。耳まで赤くして、彼は震える声で言った。
「一目惚れだよ。こんなの初めてで自分でも笑える。君が好き・・・大好きなんだ・・・」
ドーナルは、ぼろぼろ泣き出した。え、ええ?と僕はおろおろと彼を抱きしめた。ふわ。とドーナルからすごく優しい匂いがした。なんの匂いだろう。僕は小さな頃に聞いたお婆ちゃんの言葉を思い出す。

優しい人はね、いい匂いがするのよ。体から。

「好きだよ・・・大好きなんだアダム・・・・」
しゃくりあげながらドーナルはぶつぶつと呟いている。僕は笑った。
「僕も君が好きだよ」
「えう?」
ドーナルは僕から離れた。鼻水まで出そうになっている。愛しさがこみ上げてくる。僕はドーナルの赤毛を撫でて耳元で囁いた。
「僕も、初めて逢った時からずっと・・・好きだった」
「本当に?無理してない?」
「するもんか。僕だって泣きそうだよ」
ドーナルは、爽やかな笑みを浮かべて言った。涙が溜まった目もきれいだった。
「じゃあ、キスしよう。君とキスすることばっかり妄想してたんだ」
「ファッ」
ドーナルは僕の唇にキスしてきた。単刀直入に言うとドーナルはキスが上手かった。舌も絡めてないのに、体から力が抜け落ちてしまう。とろりと溶けてしまいそうだ。

ドーナルは優しくて、ハンサム。でもどこか情緒不安定で、守ってあげなきゃ。と思う。そしてキスと・・・・セックスがとても上手で・・・・僕はそんな彼が大好きだ。彼とお爺さんになるまで一緒に生きていけたら、幸せだろうなぁ・・・・

他に何もいらないから、ドーナルだけがいてくれるだけでいい。僕の人生は完璧だ。

「Dementia」