2018-01-01から1年間の記事一覧

December・6

座り心地の悪いピックアップトラックの助手席で、ドーナルはさらに居心地の悪い思いをしていた。運転しているアダムの横顔をちらりと見た。不機嫌そうだ。けれどもハンドルを握るその指はぱたぱたと落ち着きなく動いている。ここから家は五分ぐらいだと言わ…

December・5

その日は仕事が休みで、アダムは町に買い物に出掛けようとハイウェイをピックアップトラックで走っていた。時刻は夕方になろうとしていた。殺したばかりの女もいるししばらく殺さなくてもいい。ヒッチハイカーは無視しよう。アダムは一人そう思っていた。 地…

December・4

ドーナルは生まれながらにして、選ばれし人間だった。祖父はアイルランドからの移民で、アメリカで貿易会社を始めた。貿易業は大成功を納め、彼は一代で財を築いた。だがその矢先、祖父は自分の屋敷から飛び降り自殺をした。ドーナルの父親である息子を残し…

December・3

「こんばんは」 女が顔をあげると、赤い髪の毛をした男が微笑んでいた。女も笑った。この高級クラブにいるということは、この男も「それなり」の男なのだ。女は自分の美しさや、身分に自信があったので、自分にふさわしい男としか付き合わなかった。女も笑み…

December・2

アダムは生まれる前から祝福されない子供だった。母親のオーガスタは元々情緒不安定で、鬱の傾。向がある女だった。若いうちから抗鬱剤を服用していた。ただ、美しかった。テキサスの田舎にはそぐわないブルネットの美しい髪の毛のオーガスタは、男たちの劣…

December・1

腹が減った。 毎朝アダムは空腹を覚えて目が覚める。健康的だな。と感心する。大きな欠伸をして、ベッドから起き上がる。染みだらけの穴だらけのカーテンから朝日が差し込む。温度計つきの時計を見ると既に25度。今日も暑くなりそうだ。トランクスだけの姿で…

しあわせ家族計画

「ヴェノム。お前には親とかそういう類いのものっているのか」 ある夜。エディが仕事をしながら聞いてきた。ヴェノムは、いや。と頭を横に振った。 「いいや。俺にはそういうものはいない。俺は最初からこうだった」 エディは笑って、パソコンの操作をやめた…

悦楽共犯者・3

「 何だ。これは」ミタカのデスクの上に置いてある小さな小瓶を俺は手に取った。中には黒い液体。きらきらと光るラメが見える。あぁ。と俺は気付いた。「 将軍。知らないんですか?それはマニキュアですよ」ミタカは無自覚に俺を微妙に苛立たせる言い方をす…

悦楽共犯者・2

「 サーを愚弄する者がいました」 ファズマの報告は、まるで日常会話のようだった。俺はふと手を止めて、向かいに立つファズマを見た。ファズマは表情を変えずにこちらを見ていた。俺はデスクの上で手を組むと聞いた。 「 なんて愚弄していた?」 さっ。とフ…

悦楽共犯者・1

私は指導者として君臨している。この世界を支配するために。私は騎士団長になるべくして生まれてきたのだ。余計な物など何もいらない。「女なんか殺されるわけにはいかねえよ」私はフォースの力で、そう言った敵の首をへし折ってやった。敵はばたりと倒れた…

はちゃめちゃパーティーナイト・4

モーテルの部屋にやってきたブレンドン。名前も知らないハンサムな男にしなだれかかって歩くのは最高だ。 「 さぁ。入って」 「 ありがとう」 扉を開ける男に促されて中に入った。どこにでもあるようなモーテルの部屋。だがベッドの上の壁にかかっている「 …

はちゃめちゃパーティーナイト・3

クラブでかかっていたのは、ミッキーミナージュの「スターシップ」だった。あ!とブレンドンは声をあげた。 「 僕、これ大好きなんだよね。行こう」 ブレンドンは男の手を取る。男は首を横に振って笑った。 「 踊りはあんまり得意じゃなくて」 ブレンドンの…

はちゃめちゃパーティーナイト・2

ブレンドンがサキュバスだということは、俺がツアーサポートメンバーとしてバンドと一緒に活動している時に分かった。ツアーに入って三日目にブレンドンに襲われたのだ。目を見てしまうとだめだった。体が動かなくなり、痺れるような感覚に陥る。 「 僕を見…

はちゃめちゃパーティーナイト・1

「 ダロン」 ライブが終わると、ブレンドンが後ろから抱きついてきた。俺はため息をついた。 「 ブレンドン。離れるんだ」 「 やだ・・・」 ブレンドンは俺の腹に腕を回してきて、背中に額をつけて甘えてくる。 「 ダロン。今日もかっこよかったよ」 「 あり…

キャンディ・3

第二章 春 「 何か食べるか」 事後、ベッドの上でぼんやりと半分寝ていたレンは、ハックスの声に「 ん」と気の抜けた声をあげた。ハックスは、椅子に座って、何やらメニューを見ている。シャワーを浴びてきたらしい。いつも撫で付けている髪の毛は下ろされて…

キャンディ・2

第一章 夏(2) 部屋はきれいだった。ラブホテルという安っぽさはなく、ラグジュアリーな部屋だ。 「 きれいな部屋だよな。先月できたばかりなんだ」 ハックスはレンの背後で、腕時計を外してテーブルの上に置いた。 「 水でいいか」 「 うん」 備え付けの冷蔵…

キャンディ・1

第一章 夏(1) 「横浜メリーって知ってるか?」 ハックスの言葉にレンは首を横に降った。八月の夜の十時。ハックスとレンは歌舞伎町を歩いていた。ハックスの言葉は周囲の人々の矯声や、靖国通りを行き交う車の騒音の中でもレンの耳にはっきりと聞こえた。…

world's end girlfriend・7

夕方、俺たちは湖のほうに散歩に出掛けた。手を繋いで、ゆっくりと歩いた。アダムは鼻歌で「 アクロス・ザ・ユニバース」を歌っていた。だから俺も一緒に歌った。アダムが得意げに言った。「 僕のほうが上手いな。歌」「 ああ。そうさ。君には敵わない。ビー…

world's end girlfriend・6

俺たちは休みを使って、田舎のほうに出かけることにした。田舎のほうが草花が多いし、虫もたくさんいるからだ。 向かっているのはアダムが子供の頃に住んでいた地方だった。俺たちが住んでいるところから車で一時間ぐらいの場所だ。年に二、三回行って一週間…

world's end girlfriend・5

不思議なことに、アダムはゾンビになっても俺を感じてくれた。 夜。俺たちは一緒に眠る。恋人同士だからキスをする。そのまま目を閉じることもあれば、目を閉じないで続きをせがむ時もある。今日はそうだった。一週間ぶりぐらいか。 アダムの口元の傷にキス…

world's end girlfriend・4

それから俺たちは、中々骨が折れる作業を行った。 「 ハーフゾンビのみなさん。自分が食べれるものを探しましょう」 役場に登録しに行ってもらった「 ハーフゾンビマニュアル」をアダムは読んで首をかしげた。「 ハーフゾンビ」は一定の物しか食べれなくなっ…

world's end girlfriend・3

三年前はまだこの地域はそれほど「 ハーフゾンビ」と「 人間」と「 ゾンビ」が分かれていなかった。「 人間」たちは「 ゾンビ」から身を守るためにバットや銃を持ち歩いて生活をしていた。「 ゾンビ」は頭を破壊すればいい。 心優しいアダムは何も武器を持っ…

world's end girlfriend・2

ゾンビが発生したのは丁度二十年前のことだった。ナイト・オブ・ザ・リヴィングデッドと同じ、土葬される寸前だった死刑囚の死体が甦り、人々を襲い始めたのがきっかけだった。 ゾンビに噛まれたり、傷をつけられたら感染してゾンビになる。数年後研究者が発…

world's end girlfriend・1

世界はゆっくりと終わりに近づいている。 ( ヴィム・ベンダースの映画みたいだ) 俺はそんなことを思う。彼の撮る映画は何本か観たことがある。俺は頭が悪いので彼が映画を通じて伝えたいメッセージがよくわからないまま映画は終わる。でも彼の映画は好きな…

悪の花嫁・3

「 これは・・・」 私は息を飲んだ。事後。アダムは私に背を向けてくれた。アダムの広い背中全面に彫られたタトゥー。私はその背中に触れていた。 「 五歳の時からずっと彫ってもらっていました。これは僕が生まれた時から『彼ら』のものであることの証明な…

悪の花嫁・2

シャワーを浴びたあと、寝室に通された。質素で居心地のよい部屋だ。 「 ゆっくり休んでください」 アダムは優しい笑み浮かべて部屋を出て行った。時計を見ると十一時になろうしていた。降り続いている雨はどんどん強くなり、今は嵐の様だった。私はタオル頭…

悪の花嫁

私が狂っているのか。それとも向こうが狂っているのか。分からない。だから私が見たままのことを話すしかないのだ。どうかこの話を聞いてあなたが判断して欲しい。どちらが狂っているのかを。一ヶ月ほど前の話だ。私は「 あれ」を体験して以来正気を保てずに…

きみはぼくのおんなのこ・3

僕は同性とのキスは初めてだった。マットは僕の太ももにまたがって、僕にのしかかるようにキスをしてきた。 ( 気持ちいい・・・・) 素直にそう思った。たぶん雰囲気的にマットは同性とセックスをしたことがあるだろう。上手だし、慣れていると思った。 マ…

きみはぼくのおんなのこ・2

僕たちが向かったところはバーではなかった。僕は心の中で舌打ちをした。 (クラブじゃないか・・・) スタッフたちも笑って、何がバーだ!本当に適当だな!と騒いでいる。薄暗い室内に、赤や青の電飾。大音量のEDM。バーなんていうから期待していたのに。僕…

きみはぼくのおんなのこ・1

僕と彼は、セックスをした。そう。間違いなく。あれはなんだったんだろう?僕は普段と同じ日常を送りながら、あの時を思い出す。愛犬のムースの背中を撫でながら。大好きな僕のムース。ムースは気持ちよさそうに目を閉じて撫でられいる。僕は彼の手を思い出…