world's end girlfriend・7

夕方、俺たちは湖のほうに散歩に出掛けた。手を繋いで、ゆっくりと歩いた。アダムは鼻歌で「 アクロス・ザ・ユニバース」を歌っていた。だから俺も一緒に歌った。アダムが得意げに言った。
「 僕のほうが上手いな。歌」
「 ああ。そうさ。君には敵わない。ビートルズも敵わないよ」
「 あはは」
アダムが笑ったその時だった。パキ。と森の中から枝を踏みつける音がした。俺たちは、はっ。と音がした方向を見た。
湖に行く小道は森の中だ。暗がりの中、さっ。と何か赤いものが木陰に隠れるのが見えた。
アダムはそちらを見たまま、俺の手を再び強く握った。獣の類いではない。誰かいる。
( 銃を置いてきてしまった・・・)
俺は心の中で舌打ちをした。銃は別荘に置きっぱなしだ。ゾンビだったらまだいい。動きが遅いからすぐに離れて警察か軍に通報すればすぐに駆除してくれる。
また、パキ。と枝を踏みつける音がした。俺はそちらに向かって声をあげた。
「 ヘイ!誰かいるのか?」
木の陰から両手を上げて出てきたのは、赤いネルシャツを着た男だった。髭が生えていて、疲れきった顔をしていた。スニーカーは泥だらけだった。リュックと猟銃を背負っている。
「 撃たないでくれ・・・」
男は虚ろな顔のままぽつりと呟いた。俺は言った。
「 何なんだ。あんたは」
「 ・・・俺はずっと歩いてきた・・・」
「 どこからですか?」
隣のアダムが聞いた。男はアダムを見た。男は驚いて、目を見開いた。アダムの口元の傷を無遠慮に指差して言った。
「 あんた・・・ハーフか」

アダムも最初、むっ。とした様子だったが返事をした。
「 ・・・はい」
俺はそれに苛立ち、二人の間に割って入った。
「 何なんだあんた。いきなり」
「 ハーフになって何年目だ?」
「 人の話を聞け!」
男は俺が声を荒げても動じることはなかった。むしろゆったりとした動作で俺を指差した。反対に俺のほうが、緊張してぎくりと体が強ばった。
「 いいか。彼氏。よく聞け。俺は三日間歩き続けてきた。途中でゾンビを殺しながらな。あとは自分が死ぬ場所を探してた。なんで俺がそんなことをしたかわかるか?」
ヒッ。と男は下品に、それでいて悲しげに笑った。
「 俺は妻を殺したんだよ」
男はアダムを指差した。
「 俺の妻は首に傷があった。妻もハーフゾンビだった。三年前からだったよ。気を付けろ。彼氏」
「 何が言いたいんだ。お前は!!!」
俺はほとんど絶叫していた。男は先程の悲しげな笑いを浮かべながら言った。
「 三日前、妻はハーフからゾンビになった。仕事から帰った俺が見たのは十歳になる自分の娘の体を貪り食ってるゾンビの妻だったんだ。だから俺は妻の頭を猟銃で吹っ飛ばした。この背中の銃でな」
風が吹いた。血生臭い匂いが風に乗って漂ってくる。俺も、アダムも黙ったまま男を見つめていた。男は突然膝をついた。
「 大丈夫ですか?」
アダムは男に近寄って肩に触れた。
「 目眩が・・・」
「 何も食べてない様子ですね・・・」
はは。と男は笑った。
「 この三日水と適当なスナックしか食ってねぇからな」
「 僕たちのところで休んでいってください。すぐそこですから」
「 アダム?何を言って」
アダムは自分の肩を貸して男を立たせた。アダムは俺の顔を真っ直ぐ見て言った。
「 彼の奥さんのことを詳しく聞きたいんだ。君も聞きたいだろ」
俺は黙った。アダムは意志が強い。俺がどうこう言ってもやると決めたらやるのだ。
「 ・・・手伝うよ」
「 彼は僕一人で大丈夫。マットは先に戻って彼がソファに寝れるように準備していてくれないかな」
「 わかった」
俺は先に家に戻るために急ぎ足で歩いた。男が言ったことを思いだして胸がざわざわした。
・・・もし本当なら・・・

俺は頭を振って、それを考えないことにした。

だが、エンドロールは確実に近付いていたのだ。

それは多分、アダムも感じていたんだろう。