world's end girlfriend・4

それから俺たちは、中々骨が折れる作業を行った。

「 ハーフゾンビのみなさん。自分が食べれるものを探しましょう」

役場に登録しに行ってもらった「 ハーフゾンビマニュアル」をアダムは読んで首をかしげた。「 ハーフゾンビ」は一定の物しか食べれなくなってしまうので、自分でさがさないといけなくなる。もし食べれないものを食べてしまったら・・・・ アダムは疲れた顔でソファーに座っている。俺は隣で肩を抱いてやった。

「 大丈夫か」

「 ・・・今日はもうやめとく・・・」

アダムは何回もトイレに駆け込み嘔吐を繰り返していた。ハーフゾンビは食べれないものを食べてしまうと吐いてしまうのだ。しかも大量の血を。一回だけトイレに間に合わなくて、アダムは俺の前で血を吐いた(ちなみに食べたのは人間ときによく食べていたチョコレートだった。)

「 ごめ・・・」

アダムは苦しそうに咳き込みながら、血を吐いた。両手で口を覆っても指の間から溢れ出るどす黒い血に、俺は恐怖を覚えた。本当にもう、アダムは人間ではないのだ。俺は哀しみに苛まれて、泣きそうになるもののぐっ。とこらえた。

「 苦しいだろ。いいから全部吐けよ」

うん。とアダムは頷いた。ひくっ。ひくっ。と広い背中が揺らしながら嗚咽し、床にぼたぼたと血が落ちる。ふふ。とアダムは笑った。俺はその笑顔にびっくりしたものの、ほっとした。俺は床にへたりこんだアダムの隣で背中を抱いて撫でていた。アダムは手の甲で血を拭うと俺の胸に頭を預けた。

「 一緒に飲みに行ったの覚えてる?」

アダムの言葉に俺は笑った。

「 覚えてるよ」

「 あの時もこんな感じだった」

 

アダムに言わせれば、「 緊張してたからしこたま飲んだ」らしい。まだそんなに親密な関係ではなかった頃。ここでキメたいと思った俺は、行き付けのバーにアダムを誘った。 会話も弾み、俺とアダムは笑っていた。とてもリラックスしていたから俺はカウンターの上に投げ出されたアダムの手に自分の手を重ねた。初めて手に触れた瞬間だった。 アダムの笑顔が消えた。俺も真顔になる。アダムは言った。

「 吐きそう・・・・」

「 えっ」

さっきからテキーラをショットで何杯も飲んでいると思っていた。俺はアダムを介抱してやった。便座を抱えて苦しそうに吐くアダムの背中を撫でながら、俺はアダムがますます愛しくなっていた。

 

「 あのあとキスしてくれたね」

アダムは嬉しそうに俺の胸に頭を預けたまま笑った。俺も笑った。

「 ファーストキスだった」

「 ゲロ臭かったね。ごめんね」

アダムは自分口元血をぬぐいながら呟いた。何気ない会話に俺は少し心が癒された。

「 錠剤もらおうか」

政府が開発したハーフゾンビのための錠剤は無料でもらえるものだった。中々自分にあう食べ物が見つからないハーフゾンビは、支給される錠剤で飢えを凌いでいた。アダムは自分が吐いた血で汚れた床をタオルで拭きながら、そうだね。と呟いた。

「 マットと同じものが食べれないから寂しいよ」

俺は黙った。ハーフゾンビはしばらく食べなくても生きていけるが、せいぜい一週間が限度だ。

俺も寂しさを感じた。

次の日、俺とアダムは散歩に出かけた。いい天気だった。アダムの冷たい手握って歩いていると、ひらり。と蝶々が俺たちの前に現れた。ふ。とアダムは俺から離れると、長い腕を伸ばして、その蝶々を掴んだ。

「 えっ」

俺が言うと同時に、アダムはその蝶々を口に入れて食べてしまった。アダムは自分でも驚いた顔をしている。

「 よりにもよって・・・虫・・・」

アダムは泣きそうになりながら、唇についた青い燐粉をぬぐった。俺は驚きながらも肩をすくめた。

「 食料が見つかって良かった。うまかったか?」

「 うん・・・」

虫が食べれるなら、虫が食べる草花なんてどうだろう?と俺はたちは試しに花屋でミニバラの鉢植えを買ってみた。

「 あ・・・美味しい」

アダムは安心したようにぶちぶちとミニバラをちぎって食べた。俺は心の中では若干ビビりながらも、その様子に安心した。アダムは言った。

「 若干引いてるだろ」

「 引いてないよ。かわいいと思って見てた」

アダムはバラの花をまるでポップコーンのように、口に放り込むと笑った。

「 相変わらず嘘が下手だね」

 

こうしてアダムは、虫と草花を食べる優しくか弱いハーフゾンビになったのだ。