悪の花嫁・2

シャワーを浴びたあと、寝室に通された。質素で居心地のよい部屋だ。

「 ゆっくり休んでください」

アダムは優しい笑み浮かべて部屋を出て行った。時計を見ると十一時になろうしていた。降り続いている雨はどんどん強くなり、今は嵐の様だった。私はタオル頭拭きながらぼんやりと窓ガラス吹き付け雨粒を見つめていた。おかしな夜だ。こんなこともあるのか。 私は部屋の明かり消してベッドに潜り込んだ。眠りに落ちる前にふと、潮の香りを感じた。 なんだろう。 夢を見た。暗い浜辺を歩いている。波打ち際を裸足で歩いていた。誰かが目の前に立っていた。じっと海を見ている。近付いてみると、それはアダムだった。上半身は裸で、黒いズボンを履いているだけの姿だった。 アダムは私を見ると、にこりと笑み浮かべた。私はその笑みに異様さを感じて後退りをした。 「・・・・」

何かアダムが言っている。それは何なのか分からない。私はじりじりと後退りをする。アダムが右手を伸ばしてくる。 しゅる。 衣擦れのような音とともに、アダムの背中から黒いものが這い出てきた。それはアダムの伸ばされた右腕にするりと絡みついてくる。 アダムは笑っている。それは笑顔ではなく、恍惚としているように見える。アダムの腕に絡みついたそれは、アダムの腕を覆いつくしてしまった。真っ黒なそれは、ぬるりと艶を帯びている。妖しげに蠢くそれに覆われた右腕をアダムは撫でている。アダムは私を見た。

「・・・」

私は首を横に振る。何を言われているのか分からない。だが私は恐怖を感じている。もう一度アダムが呟いた。

「 その時が来た」

 

「 うわあああああああああああああああ!!!!」

私は絶叫して飛び起きた。寝室の扉がノックされた。私は、はっ。と扉を見た。

「 大丈夫ですか?開けてください」

私はベッドから降りて扉を開けた。アダムが心配そうな顔で立っていた。私はなんとか笑うと、ありがとう。と言った。

「 大丈夫だよ。ありがとう」

「 普通ではない叫び声でしたよ」

私はアダムを部屋に入れた。並んでベッドに座って見た夢の話をした。アダムはじっと床を見つめて私の話を聞いていた。

「 おかしな夢だったよ・・・疲れているんだな」

私が言うと、アダムがいきなり私に抱きついてきた。ヘイ!と私は身を捩ってそれから逃げた。 「 な、何だ?どうしたんだ。アダム」

私は笑いながらアダムを見た。アダムはぼんやりと私を見ていた。何か言いたげな唇。困惑しているようでいて、どことなく興奮しているように見えた。アダムの瞳の色はヘーゼルブラウン色で澄んでいた。アダムは自分のシャツのボタンを外した。

「 時間がないんです」

するりとアダムはシャツを脱いだ。白い体が暗闇の中浮かび上がる。アダムは私の肩に手を置いた。肘から腕にかけて黒い模様のタトゥーを入れていた。

「 アダム」

アダムは私にキスをしてきた。その唇に私は動くことができなくなった。アダムは舌を絡ませてくる。その感触に私はぞくり。と背中が震えた。恐怖ではなく、興奮していた。 唇を離すと私とアダムの唇の間に唾液の糸ができた。アダムは笑った。

「 驚きますよね・・・ごめんなさい」

アダムは私のシャツの中に手を滑り込ませてきた。ひやりとした感触。アダム手は私の腹を撫でた。ほんの近くに顔を近付けて、私の耳元で囁いた。

「 僕は、この時をずっと待っていた」

アダムの赤い唇が、暗がりの中でも分かるぐらい艶めいている。いつの間にか嵐は止んでいた。月が出ていて、その月明かりが窓から差し込み、アダムの体や唇を照らしているのだ。私はシャツを脱がされ、ベッドに押し倒された。抗うことができない。アダムは私の喉にキスをした。

「 お願いします。どうか」

アダムは本当に切羽詰まっている様子だった。アダムは私のズボンの中に手を入れてくる。私は息を飲んだ。アダムは私の耳元で囁いた。

「 あなたのこれを、僕にください。あの匂いを感じて、その夢を見るあなたにしかお願いできない」

アダムはもう一度私にキスをしてくる。私の思考は完全に停止して、目の前のアダムの体に欲情する獣になっていた。私は上に覆い被さっていたアダムを自分の下に組み敷いた。アダムは満足げに笑っていた。同性とのセックスは初めてだったがそんなことはどうでもよく、私はアダムの体を早く味わいたくて仕方なかった。アダムは私の背中に腕を回して耳元で囁いた。

「 早く来て。大丈夫。父さんと母さんで慣らされるから」

私の心がひやりと震える。ふとアダムの肩の裏にもタトゥーが入っているのに気付いた。私はアダムに挿入しながらぽつりと呟いた。

「 何のタトゥーなんだ?」 アダムは、ふふ。と笑った。

「 後から見せてあげますね」

私はアダムの体を思う存分堪能した。アダムの中に射精するとき、アダムは私の腰を両足でしっかりと挟み込んできた。私の腕に爪を立てて、私を見つめて言った。

「 僕の中に出して。全部」

私はアダムの言葉通りにしてやった。アダムは笑顔を浮かべた。その笑顔を浮かべたままアダムは涙をこぼした。

 

「 ありがとうございます・・・・」