December・1

腹が減った。

毎朝アダムは空腹を覚えて目が覚める。健康的だな。と感心する。
大きな欠伸をして、ベッドから起き上がる。染みだらけの穴だらけのカーテンから朝日が差し込む。温度計つきの時計を見ると既に25度。今日も暑くなりそうだ。
トランクスだけの姿で寝ていたアダムは髪の毛をかきむしり、ベッドから降りた。ジーンズをはいて、シャツを羽織って階段を降りる。冷蔵庫を開けて、ミネラルウォーターを飲む。思っていたより喉が渇いていた。冷蔵庫を閉めて、ため息をついた。
「腹減ったな・・・」
朝は近くのダイナーで食べるとして、夜は楽しもう。夕食はとことん豪華にする。だって昨晩すてきな食材を仕入れたから。何日にもわけて、大事に食べよう。
「母さん。昨日も俺は偉かったよ。いい子にしてた」
アダムは五年前に死んだ母親の写真に語りかけた。母親は写真立ての中で、眩しそうな顔をしている。若いときの写真だ。花柄のワンピースを着て佇んでいる。写真を撮ったのは誰だろう。もしかして父親かもしれない。壁に飾ってある母親の写真を見てアダムはそんなことをいつも考える。
外に出て、眩しい朝日に顔をしかめる。青空。白い雲。今日もいい1日が始まりそうだ。
家の横に停めてあるピックアップトラックに向かう。荷台のカバーを外して中を見た。
「おはよう」
荷台にはホットパンツにタンクトップを身に付けた女の死体が入っていた。大きな乳房はタンクトップの横からはみ出ている。大きな尻をした女だった。
女はぽかんとした顔で死んでいた。当たり前だよな。とアダムは自分で思う。後ろから近付いていきなり首の骨を折ったのだから。
「びっくりしたよな。ごめんな」
女の金髪を撫でながらアダムは優しく呟いた。アダムは優しい男だった。穏やかで優しくて臆病だった。だから殺しを止められない。
『この女に欲情したの?』
「するわけないよ。母さん。俺はいい子だから。この女はただの食料だよ」
脳内に聞こえる母親の声にアダムは答える。アダムは女の太ももを撫でながら呟いた。

「今夜食べてやるからな」

腹が減ったな。ダイナーに行こう。アダムはカバーを再びかけた。

 

「December」