しあわせ家族計画
「ヴェノム。お前には親とかそういう類いのものっているのか」
ある夜。エディが仕事をしながら聞いてきた。ヴェノムは、いや。と頭を横に振った。
「いいや。俺にはそういうものはいない。俺は最初からこうだった」
エディは笑って、パソコンの操作をやめた。そうか。と傍らのヴェノムの頭を撫でた。
「最初からヴェノムだったんだな」
「そうだ。エディ。お前は?ニンゲンには必ずいるだろう。オヤというものが。オヤがいないとニンゲンは生まれない」
「よく勉強してるな。俺にはいたぞ。どっちももう死んじゃったけどな。いい両親だった。父さんからは正義を、母さんからは人を愛することを学んだ」
エディは遠くを見るように目を細めて、幸せそうに笑った。そうか。と傍らのヴェノムは一人納得した。
「だからエディは、アニーと出逢えたのか。そして愛しあうことができたんだな。オヤから学べなかったら、愛しあうことや、エディの仕事はできない」
はは。とエディは笑った。ソファーにごろりと横になって、ヴェノムの頭を撫でた。
「お前の言う通りだ。ヴェノム」
エディの周りにはいつも人がいる。みんな楽しそうに笑っている。そしてエディを抱きしめる。エディ。またね。エディ。頑張ってね。
「ありがとう」
エディはいつも感謝している。周りの人々に。
(そういうとことろが、エディが愛される理由なんだ)
ヴェノムは思う。最初、地球にきたとき、狭苦しくくだらない惑星だと思っていたが、エディと出逢ってその意識が変わった。
おもしろい。
ヴェノムの仲間達(そもそも仲間などいう感情はないのだろうが)のシンビオート達は「乗り物」を選ぶとき、全て感覚で選ぶ。気に入らなかったらそれまで。次の「乗り物」を選ぶだけ。ヴェノムはエディを選んだ瞬間、これ以外の「乗り物」とはもう出逢えないと思った。エディ以外は考えられなかった。 誠実すぎて不器用。どこまでも信念貫こうとする姿。そして、慈悲深い優しさに満ち溢れていた。エディはそういった人間だ。
ヴェノムの中に、エディとアニーが愛し合っていたときの記憶が流れこんでくる。ヴェノムは最初それを感じたとき、何とも思わなかった。だが今、アニーとエディが「一旦」離れている今だからこそ分かることがある。 アニーも、エディと出逢ったときヴェノムと同じように感じたのだろう。 「エディ以外考えられない」と。
「ヴェノム。なんか機嫌悪くないか?」
夜、エディの仕事を終えて道を歩いているときに、エディが聞いてきた。エディの仕事のときはヴェノムはおとなしくしている約束だったから黙っていたけど、一緒にいるようになって、ヴェノムの考えもエディは感じるようになっていた。
「別に。悪くない」
ああ。とエディは明るく声をあげた。
「分かった。腹ぺこなんだろう。いいよ。お前が食べたい物を食べよう」
「減ってない。それよりエディ。楽しそうだったな」
「あ?何が?」
「今日の仕事相だよ。エディと話をして相手も楽しそうだった」
ああ。とエディは嬉しそうに笑った。
「そうだな。俺より若いやつだったけど、立派だったな。自分で会社を立ち上げて、社会問題を独自の観点から取材して記事を書いて、フリーペーパーとネットのみで有料マガジンを刊行している。今、ダウンロード数がすごいことになっているんだ」
「エディと同じ仕事だな」
いや。エディは首を横に振る。
「同じと言えば同じだけど。あの観点は俺にはないよ。すごいやつだ」
こういうところだ。 エディが人々から愛される理由は。
「そうか」
「・・・やっぱりお前、機嫌悪くない?しばらく人を食ってないからか?」
「うるさい。もう寝る」
「うるさいって・・・ヴェノム?おーい」
エディの問いかけに、ヴェノムは何も答えなくなってしまった。何だよ・・・とエディは一人ごちて首をかしげながら道を歩いた。
その夜。ひとりヴェノムは目を覚ました。エディの体から出て、眠っているエディの枕元に立った。 まだ十二時前なのに、寝ているエディは珍しいと思った。仕事が立て込んでいるときは二時、三時まで起きてパソコンの前で難しい顔をしているが、今は落ち着いているのだろう。
「エディ」
ヴェノムはエディの顔に触れた。温かい。エディも食べたら旨いんだろう。
「でも、お前は食べないよ」
ヴェノムはエディの顔を軽く舌先で舐めた。ヴェノムの舌は長いから本気で舐めたら起きてしまうかもしれないが、舌先だったら気付かれないだろう。
「ん・・・」
エディはくすぐったそうに軽く身じろぎしただけで、目を覚まさなかった。疲れているのだろうか。ヴェノムはゆっくりとエディの上にかかっていたタオルケットを取った。エディはいつもトランクスとTシャツだけで眠る。
「今だけ、俺のものになれ。エディ」
エディがアニーにしてあげたように、自分もしてあげればいいのだ。ヴェノムはエディの首筋や、耳を舌先で舐めながら、シャツをめくりあげて胸に触れた。エディは筋肉質だ。ヴェノムが気に入ったところもそこだった。
「ふぅ・・・ん」
エディが小さな声をあげる。ヴェノムは今までにない感覚を感じていた。初めてこの地球に降りたったときと似ている。だが、今はそれ以上の何かを感じている。背中がぞくぞくとする。自分のこの感覚を、きっとエディも感じている。
「エディ」
ヴェノムはエディの胸に触れた。下からすくいあげるように胸を揉みしだく。アニーは「ここ」をいじられると興奮していたから、きっとエディも・・・ヴェノムはエディの乳首を指先で軽くひっかいた。エディは、びくりと肩を震わせた。起きている様子はない。エディとヴェノムは一心同体だから夢だと思っているかもしれない。
「やっぱり、ここが気持ちいいのか。エディ。俺も気持ちいいぞ」
ヴェノムは、エディの乳首を舐めた。眉を寄せて、エディは体を震わせる。甘ったるい声をあげるエディ。ヴェノムはエディの胸を揉みながら、片方の乳首を舌で刺激を与えた。ぐりぐりと強くしたり、弱くしたりする。
「くぅ、ん・・・・ふぅ・・・」
まだ眠っている。エディの顔や首筋や耳はうっすら赤くなっている。エディの興奮はヴェノムに全部伝わってくる。アニーはエディにこんなことされていたのか。
「もう、誰にもしないでくれ。俺だけのものになってくれ」
ヴェノムはエディの唇を舐めた。キスはできないからこれがヴェノム流のキスだ。あとはここを・・・ヴェノムはエディのトランクスを下げた。勃起したぺニスが勢いよく出てきた。
「これをいじると、もっと気持ちよくなれるんだな」
ヴェノムはおそるおそるエディのぺニスに触れた。
「んぁっ!!」
エディが声をあげた。ヴェノムはエディの様子を伺いながらぺニスをゆるゆると握りこんだ。先端からとろりとした液体が溢れている。
「もっと気持ちよくなれ。エディ」
ヴェノムはぺニスを握ったまま、上下に扱き始めた。先端を舌で舐めると、エディは背中を弓なりに反らして声をあげた。
「あ、ああっ・・・・!」
「エディ。俺だけのエディ。好きだ・・・大好きだ」
ヴェノムは舌をエディのぺニスの巻き付けて、今度は舌で扱き始めた。身悶えるエディ。
「はぁ、あ」
エディは短く声をあげると、射精した。ヴェノムの舌にエディの精液がかかった。ヴェノムはエディのぺニスから舌を離した。 ふ。とエディが目を開けた。とろんとした目をしてヴェノムを見上げる。一瞬どうしようかと、ヴェノムは動揺した。 エディは、にこりと笑った。小さな子供が親にやるように、両腕を伸ばして自分の上にいるヴェノムを抱きしめた。そして、また眠ってしまった。 ヴェノムは、とりあえず胸を撫でおろしてエディのトランクスやシャツを直した。そしてエディの元に戻って何も考えないようにして、朝を待った。
「ヴェノム。スターバックスに行こうぜ」
次の日の朝、ふだんと変わらない様子のエディに、ヴェノムは安心した。夢か何かと思っているのだろう。
「キャラメルマキアートのベンティが飲みたい」
「はいはい。今日は寒いからせめてホットにしてくれよ」
窓際の席に座り、巨大なカップに入ったマキアートを飲む。ヴェノムも、のんきにその甘さを堪能していた。ふと、エディが呟いた。
「ヴェノム」
「何だ」
「別に、俺はいいんだぜ」
「何がだ」
エディの顔は赤かった。ヴェノムは、はっ。と昨夜のことを思い出した。
「エディ」
「言わせなんなよ・・・起きてるときでもいいんだぜ?あんなことお前、できるんだな」
「エ、エディ。好きだ。大好きだ」
ヘイ!とエディはヴェノムを制した。
「ここで出てくんなよ」
「わ、分かった。すまない・・・」
「俺もお前が好きだよ」
エディは照れながら言った。ヴェノムは何も言わなかった。いや、何も言えなくなってしまった。
もう、二人に言葉は必要ないのだ。