Dementia・6

家に着くと、ムースが尻尾を振りながらやってきた。
「ただいま。ムース。寂しかったね」
アダムはムースの頭を撫でて笑った。俺は噛まれた右腕を擦ってアダムの後ろに立っていた。アダムはムースの頭を撫でながら言った。
「ドーナル。そこに座って」
アダムは俺の顔を見ようとしなかった。俺は言われた通り指定されたソファーに座った。アダムは屈んでムースの額にキスをした。
「今から僕とドーナルは大事な話をするから、あっちに行っててね」
ムースは言われた通り、部屋を出て行った。アダムは扉を閉めた。アダムは俺と向かいあって座った。しばらくアダムは俺と見つめあっていた。相変わらず俺は噛まれた腕を撫でている。
「何してんだよ」
表情を変えずにアダムは聞いてきた。
「えっ」
「何してんだか聞いてんだよ!!!答えろドーナル!!!!」
クソ。とアダムは額を押さえて呻いた。俺はじわじわと今になって恐怖がやってきた。もう俺は人間ではない。いつゾンビになるか分からない。今の瞬間なるかも。アダムは頭を抱えて、呻いた。
「どうして僕の好きな人が・・・愛してる人が・・・なんで」
「あの」
「何したか答える気になった?」
「オッパイ見てました」
俺は正直に答えた。はは。とアダムは乾いた声で笑った。
「彼女大きかったもんなぁ。あれ、露出狂じゃないのか?」
「そうかも知れない」
「僕というものがありながら、なんで女のオッパイなんか見てるの?」
アダムは裏返った声で喚いた。俺はこんなアダムを見たのは初めてだった。かなり動揺した。アダムは、クソ。と悪態をついて髪の毛をかきあげた。俺は恐る恐るアダムに近寄った。そっと髪の毛に手を伸ばす。払い除けられたらどうしようと思ったが、そうならなかった。じっと俺を見上げていた。すがるような子犬の目。俺はアダムのその目を見たとき、胸が締め付けられて、涙が出た。不思議なもので死んでても涙が出るんだ。
アダムの目から涙がこぼれた。俺はその涙に唇をよせた。アダムは俺の肩を掴んで呟いた。
「オッパイ見てて、ゾンビに噛まれるなんて馬鹿みたいだ」
「返す言葉もないよ。ごめん。君のオッパイも好きだよ」
「知ってる」
俺達は泣きながらキスをした。
ベッドルームに向かい、俺達はベッドに倒れ込む。死んでてもアダムの体に興奮するし、勃起する。アダムは濡れた瞳で俺を見上げてくる。その目は真剣で、俺はたじろいだ。そっと俺の頬に手をやる。
「よく聞いて。その時が来るまで僕はきみの側にいて最後まで見届ける。そのときまで愛し続けて」
「アダム・・・」
「だから君も、僕を最後まで愛してね」
俺は返事する代わりにアダムに深くキスをした。アダムはやっと笑ってくれた。赤ん坊のような無垢な笑顔。アダムは自分の足をゆっくり開いた。汗ばんだ太腿の間で勃起しているアダムのペニス。俺は息を飲む。あのさ。とアダムは照れくさそうに言った。
「もう、大丈夫だよ」
「えっ」
「ドーナルのペニス、いれてほしい」
俺は頭が真っ白になった。恋人がバージンを捧げてくれた。死んでからまさかこんな幸せが来るなんて・・・

愛してる。俺はアダムを愛している。

夜中の三時。アダムは寝ている。右腕が痛くなってきた。アダムの側に行きたいと思ったが、俺は窓辺に近寄って外を見た。なんてことない夜。いつか全部、全部忘れてしまうんだろう。分からなくなって、この体も腐っていくんだろう。この右腕から腐っていくんだろうな。
ふと傍らを見ると、ムースが俺を見あげていた。やぁ。と俺はムースの頭をなでた。
「俺がゾンビになっても君は食べないからな」