Dementia・8

アダムの日記から

僕とゾンビになったドーナルはセックスをしたけど、僕がゾンビになることはなかったし、ドーナルはゾンビのままだった。
仕事はもうずっとオフだし(世界がゾンビだらけだからもう僕たちの仕事なんかなくなるかもしれない)誰も訪ねてこないのは楽だった。
ドーナルはちょっと顔色が悪いぐらいで普通の人間と変わらない。ただ噛み跡が硬くなっている。ドーナルはそこを撫でながら、僕を見て言った。
「硬くなった皮膚が柔らかくなって、腐っていくのかも」
「うん・・・」
「俺はそれでもかっこいいし、君に優しいと思うな」
ドーナルは嬉しそうに笑った。僕は思わず笑ってしまう。隣に座っているムースを撫でながら言った。
「自分で言うかね。格好良くて優しいなんて」
ドーナルは優しく笑う。
世界は何事もないように、ゆっくり流れていく。ニュースでは、どんどんゾンビが増えてきていると報道されている。あの女のように、ドーナルみたいに、ゾンビに噛まれても隠れて生きている人間(死体?というのかな)はたくさんいるのだろう。
彼等が出頭しないのは、愛されているからだ。僕がドーナルを愛してるみたいに、ゾンビになった人間は誰かを愛して、誰かに愛されているのだ。
「アダム」
ドーナルは名前を呼び、僕の唇にキスしてくる。冷たい唇。唇を離すとドーナルは笑って僕の額に、自分の額をくっつけてくれる。いつもそうだ。僕も笑う。多分僕も、泣きそうな顔をしているんだろう。
知り合いも、友達も、誰も手紙やメールをよこさず、誰も訪ねてこない。僕たちの家族も、誰もだ。
世界は変わりないのに、明らかに変わっている。穏やかな夕焼けを見て僕は思う。
世界はもう、終わりに近いのだ。こうやって静かに終わっていく。

夜に僕らは散歩に出かける。夜空は澄み渡って星空が瞬いている。夏が近いはずなのに涼しい日が続いている。上着を羽織ると調度良かった。
「この公園、昼間にムースと来たんだ」
「そうなんだ」
僕とドーナルが住んでる所から歩いて十五分ぐらいの近所に公園がある。僕らはそこに来ていた。治安がよくておかしな輩がいないのが良かった(ゾンビはいるかもしれないけど)街灯に照らされた道を歩く。ドーナルは僕の手を取ってくる。僕はその手を取る。もともとそんなに体温は高くなかったが、ドーナルの手はさらに冷たくて、悲しい。昼間は人がいるから、もうドーナルとは出かけられない。
ドーナルは振り向きざまに僕を見て、笑った。ドーナルはなんとなく、口数が少なくなった。
「ねぇ。初めてキスした時って何歳だった?」
え?とドーナルは驚いたように聞いてきた。やだな。と首を横に振る。
「恥ずかしいよ」
「聞きたいんだ。教えて」
「君が教えてくれるなら」
「教える。だから話して」
はぁ。とドーナルは恥ずかしそうにため息をついて笑った。
「オーケイ。ママ以外だろ?」
「そう。ママ以外」
「じゃあ幼稚園の時だな。ジェニーっていう若い先生だ」
「オッパイ大きかった?」
ドーナルは、僕のその問いに、ヘイ!と声をあげた。笑ってる。僕は嬉しくなってしまう。ドーナルが生きてたら、顔を赤くしてたんだろうな。
「あんまりもう、いじめないでくれよ」
「ごめん」
僕からキスする。ドーナルは笑う。ドーナルはふと考えるような顔をする。うん。と頷く。
「確かに、彼女はオッパイは大きかった」
僕は笑ってしまった。
ベンチに座って、夜空を見上げる。
「星、きれいだね」
「うん」
頷くドーナルの横顔を見る。かっこいい。僕はドーナルの股間に手を伸ばした。え。とドーナルは動揺した顔をする。しー。と僕はドーナルを制して、そのままジーンズのジッパーを下ろした。アダム。とドーナルが声をあげる。
「外だよ。ここは」
僕は笑う。髪の毛を耳にかける。トランクスの中からドーナルのペニスを取り出す。ドーナルのペニスは言葉とは裏腹に硬くなっていた。僕は息を飲んだ。ドーナル以外のペニスは知らないから分からないけど、ドーナルのは、絶対大きい。これ、全部口に入るかな。
でも僕は、ドーナルのペニスをどうしてもしゃぶりたかった。味を知りたかったし、飲み干したかった。ゲイポルノ動画で見て勉強したからできるはずだ。
「だから何だよ。僕がしたいんだからさせてよ」
ここまで書いておいて、すごく恥ずかしくなってきた。省略して書かせてもらうけど、野外で僕らは、頭の悪いティーンみたいにめちゃくちゃ盛って、セックスをした。思い出すと恥ずかしくなると同時に、クソっ・・・

ドーナルは寝ている。一人でバスルームで抜いてこよう。