アローン・7

先生に覆いかぶさっていたカートは、顔をあげるとにこりと笑った。口元は血まみれだ。得体の知れない肉の欠片がぶら下がっている。カートはそれを飲み込むと笑った。
「君のためだよ」
僕の髪の毛をなでて、カートは笑った。
「すべてを忘れてしまった僕に、生き返った意味を教えてくれた。こいつは僕と君を引き離そうとしたんだ。だから殺した」
僕は涙が出た。「僕のために」と言ってくれる人がいるなんて・・・僕はカートに強く抱きついた。背骨のことが気になったけど、まぁ大丈夫だろう。カートは優しい笑みを浮かべたままだったから。
ドーナル先生が死んでしまった今、周りの人間たちが騒ぎたてるだろう。そうするとゾンビのカートはどこかに連れていかれてしまう。そして僕は・・・どうなるだろう。逮捕?それともママが・・・いや、もうママには会いたくないし、会わなくてもいい。僕はカートの耳元で囁いた。
「カート。僕は君と同じになりたい。君と同じになって生きていきたい」
エドワード。ありがとう」
カートは僕の手を取った。手の甲にそっとキスをしてくれた。そのままカートは僕の手の甲に歯を立てた。
「あっ・・・・ぁ、うぐっ・・・・!」
反射的に逃げそうになる。痛い。涙が出る。カートは僕の手の甲を愛しげに噛み千切った。血が溢れて、ぼたぼたと床に落ちた。僕の手の甲は抉れて肉が見えた。すごいな。と僕は激痛にふらふらになりながらも、トム・サヴィーニの特殊メイクみたいだと思った。
カートは僕を抱き寄せた。耳元で囁いてくれた。
「だんだん気持ちよくなってくるよ。大丈夫」
僕はカートのかび臭い胸に頭を押し付けてふぅ。とため息をついた。目の前がチカチカと点滅してきた。風邪を引いたときみたいだ。でもカートの言う通り、心は穏やかで気持ちよかった。
「目を閉じて」
カートの言葉通り、僕は目を閉じた。

 

「ここか」
俺はエドワードの家の前に来ていた。なんて思われるだろうか。

来てくれて嬉しいよ。デニス。

俺は扉を開けて、満面の笑みを浮かべるエドワードを妄想する。そのかわいい笑顔に俺は一人ニタニタ笑った。俺は一応大人だから。エドワードが抱えている悩みを解決してあげたい。
夜の七時を回っているのに、家は真っ暗だった。誰もいないのだろうか。玄関の明かりだけがついている。俺はインターホンを押した。すぐに扉が開いた。
パーカーのフードを被ったエドワードが立っていた。顔色が悪い。エドワードは俺を見ると、小さく笑った。
「こんばんは。デニス」
エドワード・・・大丈夫か?俺、心配で来てみたんだ」
「ありがとう。来て」
エドワードは俺を中に招き入れた。

「今日はね、友達が来てくれたんだ」
暗いリビングに連れて行かれる。灯された明かりの中、現れた物に俺は呆然とした。
赤毛の男が床に倒れ込んでいた。喉から大量の血が溢れて、目を見開き天井を見上げている。そして、ぼろぼろの服を着た金髪の男が、赤毛の男の腹に顔を埋めている。男は赤毛の男の内臓を、食っている・・・・食っている!!!金髪の男は顔を上げた。口元を真っ赤に染めてにこりと笑った。
「うわああああああ!!!!!!!!!!!!」
俺は悲鳴をあげた。それと同時にエドワードが俺の喉元に喰らいついた。仰向けに俺は床に倒れ込む。ものすごい力だ。噴水のように俺の喉から大量の血が溢れた。エドワードは俺の股間に手を伸ばしてきて、ぎゅっ。と掴んできた。俺はこんな時でも幸せを感じた。エドワードは俺のズボンの上からペニスを掴み、そのまま引きちぎった。
「ぎゃあああああああああ!!!!!!」
俺は悲鳴をあげた。エドワードは俺のペニスを美味そうに噛み締めて、もぐもぐと食べている。
世界は暗転していく。俺は好きな人にペニスを食われて死んでいくのだ・・・俺は一人笑った。

意識を持ったゾンビとなったエドワードと、カート。二人はキスをする。唇を離して、見つめあい、微笑みあう。
「きれいな夜だね」
「うん」
二人は窓辺に立って、一緒に空を見上げた。丸い月がぽっかりと浮かびあがっている。カートはエドワードを見つめた。
「僕と行こう」
エドワードは、うっとりと頷いた。
「うん」

二人は手を取り合って、夜の世界に向けて歩き出した。