天使と僕の美しき日々・2

アダムは天使だ。気づいたらこの土地で立っていた。どれぐらい前からここにいるのか分からない。ただ、何もなかったこの土地に人が住み始め、ビルが建ち、人がどんどん増えていく様子を見てきたから、かなり前からいるのだと思う。 アダムの仕事は、先ほどのように死に行く人間によりそい、天国へ導くことだ。天使がつける人間は限られている。美しい魂を持っている人間だけだ。あの女の子もそうだった。

天使はどこへでも行ける。アダムは高層ビルの屋上の縁に座り、空を見上げていた。

「空は青色。どんな色・・・」

アダムはぽつりと呟く。天使の世界は色がない。白黒の世界だ。

「人間の子供みたいね」

ふと顔をあげて横を見ると、ティルダが立っていた。長身で、髪を短く耳の上で切り揃えたティルダも、アダムと同じ天使だった。 天使はこの地球に無数にいる。アダムはたまに他の天使と話をしたりするが、このティルダとは特によく話をした。気があったのだ。 ティルダはアダムの隣に座った。アダムは男の天使だが、ティルダは女の天使だ。でも、それは多分だ。女の言葉を使っているから、アダムはティルダを女だと思っているだけだ。ティルダは男にも見えるし、女にも見える。

(もしかして、どちらでもあるのかもしれない)

ティルダはアダムの隣に座った。地上から数百メートル上にあるこのビルは、この町で一番高い建物だ。アダムは笑った。

「人間の子供?」

「さっき、空は青色、どんな色って言ってたじゃない。人間の子供みたいだったわ。足ぶらぶらしてね。ママを待っているみたいだった」

「はは。そうか・・・」

「私も空がどんな色か見てみたいわ」

「人間って、面白いよね」

アダムは、天国に送り出した少女にキスされたことをティルダに話をした。ティルダは、どうだった?と優しく微笑んでアダムに聞いた。アダムは自分の胸を押さえて呟いた。

「嬉しい。と思った。胸の奧が暖かくなった」

「いいわね。私もいつだったかされたことあったわ。私の場合は手の甲だった」

「ティルダはどうだった?」

「愛しいと思ったわ」

「そうか・・・」

さぁ。とティルダは立ち上がった。アダム。とティルダは名前を呼んだ。

「ん・・・」

「最近、毎日行ってる場所があるでしょ。そこに私も連れていって」

アダムは動揺した。ティルダは知っていたのだ。そこはアダムがずっと行っている場所だった。いつも外から眺めるだけだった。ティルダは笑った。

「今日は一緒に中に入ってみましょう」

天使は生きている人間の前にも姿を現すことができる。生きている人間は普段天使を見ることはできない。アダムは一度も人間の前に姿を現したことはなかった。ティルダはアダムを見ている。アダムも立ち上がった。

「きみと一緒なら大丈夫かな」

次の瞬間、二人はカフェの前に立っていた。アダムが毎日訪れる場所だった。天使は望めばいつでも、どこへでも行けた。ここね。とティルダはカフェの看板を見て呟いた。

「行きましょう」

アダムは頷いた。ティルダはカフェの扉を開けた。