Keep Your Dreams・2

「雨っすねぇ」

クラブのバーカウンターで並んで飲んでいたミタカが、ぽつりと呟いた。

「そうだな」

ハックスはマリファナの入った煙草をくわえて、火をつけた。平日の夜ということもあるのか、客はまばらだ。ドラッグが合法のこの土地のクラブは、ゴキゲンなやつらしかいない。面白いもので、あまりゴキゲンではないのが、ドラッグのディーラーであるミタカとハックスだ。合法だからどんどんディーラーが増えて、商売が上がったりだ。

「雨だと食い物が腐りやすいし、風呂場にはカビが生えるし、散々ですよ」

「主婦みたいなこと言ってるな」

ミタカとハックスは笑った。ディーラー同士のシマ争いも出てきて最近は面倒だ。ここのクラブはミタカとハックスのシマだ。何も知らないディーラーがのこのこ来た時は締めあげる。

「これからはディーラーもセンスが必要になってきますよ」

「お前はハンサムだから大丈夫だ」

ミタカは短く刈り上げた頭をかきながら、へへ。と笑った。

「ハンサムだったら、センパイに負けますよ」

「ああ。知ってる」

ちょっと・・・とミタカは苦笑いを浮かべた。ハックスはマリファナの煙を思いきり吸い込んだ。ふわ。と体が浮くような感覚。いい気持ちだ。

「ねぇ。LSDある?」

ふと横を見ると、小柄な女の子が二人。ミニスカートのワンピースの裾をもじもじと掴んで立っていた。ああ。この土地の言葉だ。彼女たちにとってハックスとミタカは「ガイコクジン」なのだ。ハックスは笑った。

「あるよ。あ、俺の言葉大丈夫?」

前髪を切り揃えて、まるで双子のような女の子二人は、うんうん。と頷いた。

「大丈夫。すっごい言葉上手ね」

「しかもかっこいい!」

「ありがと。君たちもかわいいよ」

うふふ。と女の子たちは笑った。

「オレモジョウズデショー?」

ミタカが横から顔を出して、わざと片言の言葉をしゃべった。女の子達は、キャハハ!!と声をあげて笑った。ミタカは椅子から降りて、女の子の間に立った。ぐい。と二人の肩を抱いて引き寄せた。

「やりかた分かる?LSDはきついぞ」

ハックスからLSDの小袋を受け取りながら、女の子たちは顔を見合わせた。

「あ、そっかぁ。私たち、LSDは初めてだからお兄さん一緒にやってくれる?」

「もちろん。あ、センパイもどうですか?四人で」

ハックスはひらひらと手を振って笑った。

「俺はいい。三人でどうぞ」 

そうですね。とミタカは笑った。

「あのかわいい、白雪姫みたいな彼がいるからな。センパイは」

「えーじゃーあー、白雪姫だったらすっごいかわいいじゃん」

女の子の言葉に、ハックスは、こくりと頷いた。

「かわいいんだよ」

 

ミタカと女の子二人は三人で行ってしまった。ハックスはモスコミュールを飲み干して、ため息をついた。まったく。ミタカは好きだなぁ・・・オッパイが大きくて、小柄な女の子が。しかも乱交も好きだからな。あいつは。ふふ。とハックスは笑った。 レンと出会ったのもこのクラブだった。ハックスのドラッグの売買のスタイルはいつも変わらない。ハックスから声をかけることはしない。情報を知っている客がハックスに声をかけてくる。 一年前。ハックスは同じ席でモスコミュールを飲んでいた。ミタカはいなかった。その日も雨が降っていた。

「あの・・・エクスタシーある?」

声をかけてきたのは、白いシャツにカーディガンを羽織った背の高い男だった。ピットブルの下品でセクシーなラップミュージックが大音量でかかって、男女がそれに合わせて踊っている空間に彼はあまりにも似つかわしくなかった。一瞬警官かと思ったが、この地域は合法だから大丈夫だ。背が高く、がっしりした体つきの男は、迷子のような目をしていた。不安げに自分の腕を掴んで、男は言った。

「ないなら、いい」

「いや。あるよ」

男はジーンズの尻ポケットから財布を出そうとした。ハックスはそれを止めた。驚く男を、隣に座るように言った。男は言われるがままにハックスの隣の席に座った。 ハックスはエクスタシーの錠剤を袋から取り出して、男に聞いた。

「ドラッグは初めてか?」

いや。と男は笑った。赤い唇がセクシーだと思った。伏せた睫毛もきれいだ。

「大学院の仲間とマリファナをしたことがある」

「楽しかったか?」

「とても」

「ならいいな。素質ありだ。ドラッグを買おうとした金の出所は?」

「親の仕送りだよ」

「ますます素質があるな。悪い子だな。口を開けて」

男は言われた通り口を開けた。その舌の上にエクスタシーをのせた。ゆっくり舐めて。とハックスは言った。頷く男。ハックスは男の髪の毛を撫でた。

「きみの名前は?」

「レン・・・あんたは、ハックス」

「よく知ってるな」

「だって、あんたは有名だ。とても・・・赤毛で、ここを仕切ってるハンサムだって」

「はは。ありがたいな」

ハックスはレンにキスをした。レンの坑内にあるエクスタシーの錠剤を舌でさらい、レンと舌を絡めながらそれを溶かした。

「ふ、う」

レンは、ぎゅっ。とハックスの肩を掴んだ。唇を離すと、ハックスはレンの腕を掴んだ。

「俺の部屋に来い」

レンは、手の甲で口をぬぐうと、ハックスの言葉にこくりと頷いた。濡れた瞳でハックスを見る。エクスタシーには催淫作用もある。ハックスは試しにレンの耳たぶを軽く摘まんだ。びく。とレンは体を震わせた。熱を持っている。行こう。とハックスはレンを促した。

 

部屋に入るなり、レンとハックスは抱き合って、舌を絡めてキスをした。ハックスはレンの服を半ば破くように乱暴に脱がした。レンももどかしげに、ハックスの服を脱がす。上半身裸になったところでベッドに倒れこんだ。 レンの張りのある胸を揉みしだく。筋肉がついているから柔らかい。下から掬い上げるようの揉んで、手の平で乳首を転がした。

「あ、ああっ、いや、ぁっ・・・・・!!!!!」

「嫌じゃないだろ。こんなに固くして」

爪先で乳首をカリカリと引っ掻くようにすると、あぁ、ん・・・と身をくねらせてレンは女のような橋声をあげて悶えた。涙と涎にまみれた顔で、ハックス。と声をあげた。

「入れて」

「大丈夫なのか」

レンは自分でジーンズを脱ぎながら頷いた。ハックスを見上げて笑った。

「偶然町であんたを見た。一ヶ月ぐらい前。赤毛だから目立つ。一目惚れした。あんたのことを思って、自分で開発した。だから入れて。めちくちゃにして」

 

お願いだよ。あんたにヤリ殺されたいんだ。俺。

 

レンの目から涙が溢れる。ゆっくりとそれは頬を伝う。レンは抱っこをせがむ子供のように両腕を伸ばした。

そこからハックスの思考は完全に止まり、ただ目の前のレンと一つになることだけに没頭した。レンの乳首を甘噛みして、坑内で舌で刺激を与える。勃起したハックスの巨大なペニスを、レンのそこは根本までずっぽりとくわえこんでいる。レンの中がきゅうきゅうとハックスのペニスを締めつけてる。ぐちゃぐちゃと結合部は濡れた音を立てて、精液と体液で泡立つ。ハックスの激しいピストンに、ベッドが軋み、レンは体をのけ反らせる。ハックスの腰に足を絡めて、もっと。とせがむ。

「ああっ・・・・!!!ハッ、クス、好き。もっと。もっと奥にきてぇ・・・」

「レン、レンっ・・・!!!!ああ。お前を殺してやるよっ・・・・!!!」

レンは自分も腰を動かして、ハックスのペニスを堪能している。やがて迎える絶頂に、二人は声をあげて達した。 はーっ。はーっ。としばらくハックスとレンの喘ぎだけが部屋に響いた。ちゅ。と啄むようなキスを交わして、二人はゆったりと笑った。

 

それからハックスの部屋に、レンの荷物がだんだん増えてきた。週に四、五日はハックスの部屋で過ごしている。甲斐甲斐しくレンはハックスの身の回りの世話をした。今夜は院での泊まり込みの作業があるらしい。 ハックスは頬杖をついて、虚空を見た。今まで適当に女とも男とも関係があったが、こんなに心も体も相性がぴったりだったのはレンが初めてだった。会えないのは素直に寂しい。明日には会える。ハックスはぽつりと呟いた。

 

「早く会いたいな。レン。お前はどうだ?」