TITANIUM・8

マットは、動揺を隠せなかった。アダムにはペニスも睾丸もあった。だが、導かれたそこ・・・睾丸の裏あたりだった。
(女性器があった・・・あれは一体)
初めてセックスした次の日の朝。マットは聞いた。
「君はその、男なのか?女なのか?」
アダムは笑った。
「鉱物は人間と同じ男と女とで産まれてくるけど、愛した人のために性別を途中から変えることができるんだ」
「変えることが・・・」
「そう。男と女だったら問題ないけど、同性だったら性別を変えれる。女同士だったら鉱物の女は相手のために男になるし、僕らみたいに男同士だったら・・・」
アダムは幸せそうだ。マットは納得していた。そうか。だからあのとき「女」だと感じたのだ。
「僕が、女になれる。あいつらは鉱物の人種の特性を知ってたから、なんとか僕を女にして、また新たに子供を産ませようとした。僕は絶対に女にはならなかったけど」
「そうか・・・」
アダムはマットに近づいてきた。椅子に座ったままのマットの手を取って、自分の腹に導く。
「赤ちゃん、できたよ」
マットはアダムを見上げる。優しく、穏やかな笑顔。マットは涙を零した。生まれて初めて泣いた。何を言ったらいいか分からない。やっとのことで声を絞り出す。
「分かるのか」
「分かるよ。女の子が生まれてくる」
「何か俺に、できることは」
「側にいて」
アダムはぽつりと呟いた。マットはアダムの腹に腕を回し、額をつけた。アダムはマットの頭を撫でて言った。
「側いてくれるだけでいいから・・・」
「分かった・・・」
アダムとマットは、朝日の中、抱き合って新しい命を祝福した。

日々は穏やかに過ぎて行った。マットは近所の住人の力仕事を手伝ったり、体が不自由な老人の雑用を引き受けて日々を過ごした。
「ほら。マット。見て」
何ヶ月か経ったある夜、アダムはシャツをめくって自分の下腹を見せてきた。微妙だがぷっくりと膨らんでいる。マットは息を飲んだ。
「・・・すごい。でも、早くないか?まだ三ヶ月ぐらい・・・」
「鉱物の人種はこれぐらいなんだよ。人間の女の人みたいにお腹も大きくならないし。これぐらいだと食べすぎでお腹が出てるみたいだけど」
マットは笑った。アダムはシャツをおろして、腹を撫でた。

「早く生まれてきて。僕たちのところに来て」

その日、アダムはリリーの雑貨屋にいつものように向かった。ふと足を止める。
この田舎に似つかわしくない、黒い高級車が止まっている。
アダムは不穏な物を感じて、雑貨屋に入った。
「おはようございます・・・」
「アダム。おはよう」
リリーの父親は笑顔を浮かべてアダムを浮かべた。店の奥に立っている人物に、アダムは息を飲んだ。サングラスをかけたスーツの男・・・サングラスを外して笑った。
「アダム。久しぶりだな」
アダムをずっと捕らえていた、組織のボスだった。アダムの母親の死体を解体して、笑っていた男だ。
リリーの父親はアダムに言った。
「昔の知り合いなんだって?アダム。今日は俺も暇だし、久々に話をしてきたらいい。休みでいいよ」
「ありがとうございます。アダム。?いいだろう?」
ここでもし断ったら、ボスは父親を殺すだろうし、リリーも殺す。そしてこの界隈の住人も。男はそういう人間だ。アダムは頷いた。
「・・はい。ありがとうございます」
ボスとアダムは雑貨屋を出て、車に乗り込んだ。ボスは笑う。
「髪を切って、ずいぶん印象が変わったじゃないか」
アダムは黙って俯いた。ボスは、アダムの頬を撫でた。
「アズライト。相変わらず美しい」
アダムは目を閉じた。

子供だけは、最期まで守らなければ。

マット。どうかこの子を。