パーフェクト・ディ・3

そのままリックは眠ってしまった。最近は悪酔いして眠ってしまうからよくない。呻きながらソファーから身を起こして、辺りを見る。深夜の一時。
(けっこう寝てしまったな・・・)
クリフはいない。薄暗がりの部屋の中は静まりかえっていた。
「クリフ」
リックはクリフの名前を呼んだ。その声は空虚に部屋に響いた。リックは急に焦りにも似た恐怖を覚えた。クリフがいない。クリフは俺から離れて行ってしまう。リックは外に出た。
リックの車は止まっている。だからどこかにいるのだ。きょろきょろと辺りを見回す。
街灯の明かりが乏しい暗闇から、何かがやって来る。
ずる。ずる。ずる。
何かを引きずるような音。靴音と共にやって来る者がいる。リックは闇の中に目を凝らした。
「ヘイ。ボス」
クリフだ。リックはほっとする。俺の従順なスタントマン。俺の親友・・・
クリフは変わらない笑みを浮かべていた。リックはクリフの右手見る。赤く血に染まっている。手だけではなく、腕全体が血で染まっていた。
「クリフ・・・それは」
リックは呆然とクリフが引きずってきたものを見て、呟いた。
クリフは小柄な体を引きずっていた。それは明らかに生きてはいなかった。襟首を捕まれているそれは、着ているものから女だと分かった。ビーズで刺繍された模様が施された白いサンダルは右足しか履いてなかった。
その死体は頭がなかった。いや、下顎から上がない。リックはクリフを見た。クリフは相変わらず変わらない笑みを浮かべている。リックは涙を零した。クリフはリックの涙を拭った。
「泣くなよ。リック」
「クリフ、だって・・・」
「リック」
クリフは死体を持っていた手を離した。そしてリックを抱きしめる。

リック。お前と一緒にいるためなんだ。許してほしい。

耳元で囁かれる。リックはクリフを抱きしめる。死体。血に濡れたクリフの右腕・・・冷たい腕だった。自分が愛して止まない男は、こんなにも哀しい男だったのだ。リックは涙が止まらなかった。クリフはリックの目を、血のついた右手で覆った。視界が遮られる。
クリフはリックの唇にキスをした。唇を離すと言った。

「全て忘れて。いい夢を見て」

ラクションの音が聞こえる。リックはびくりと起き上がった。ちゃんとベッドで眠っている。リックはベッドから降りると、転がるように玄関のドアを開けた。

咥え煙草のクリフがいた。いつもようにへらへらとした笑みを浮かべている。モーニン。とクリフは煙を吐き出して笑った。
「ボス。よく眠れたか?」
リックは、ぼんやりとした頭のまま、こくりと頷いた。

「ああ。よく眠れた」