TITANIUM・5

バスルームで、アダムの髪の毛を切りながらマットは聞いた。
「どこに行きたいですか?俺と」
「もう、敬語はやめてくれよ。そういう関係じゃないんだから。もう」
「・・・分かった」
長い髪の毛に隠れていた顔が現れる。目を閉じていたアダムは、ふ。と目を開けた。マットは笑った。
「きれいだ」
さっ。とアダムは目を反らす。頬に触れてくるマットの手に恥ずかしそうに笑った。思わずキスしてしまったが、マットは恥ずかしさはなかった。むしろますます愛が募っていった。
パラパラと音を立てて、アダムの髪の毛が床に落ちる。黒い鉱物となってバスルームの床に転がっていった。アダムはマットに聞いた。
「拾わなくていいの?」
いや。とマットは首を横に振る。
「関係ない。俺には君だけが必要だ」
「マット・・・」
感激したようなアダムの声。マットは笑った。あの・・・と言葉を続けるアダム。
「どうした」
「僕、田舎のほうで生まれたんだ。少し寒いぐらいの田舎。行くとしたら、そういうところがいい」
「分かった」
マットは、アダムの頬を軽く撫でて笑った。そのまま二人は田舎の方に向かった。住んでいた街からなるべく遠いところだ。
マットは有能だった。どこだって生きていける。アダムと出会い、それにますます自信がついた。
蓄えはある。アダムと自分だけならしばらくやっていける。夕方、モーテルに泊まった。地図を広げて、真剣に見ていたマットは、アダムを呼んだ。何枚かのチラシもある。
「ここから十キロ南に、家を格安で借りれる場所がある。そこに行こう」
「分かった」
「じゃあ、もう休もう。今日は走り通しだったし」
二人はベッドに潜り込む。別々のベッドだ。アダムは暗がりの中、隣のベッドで眠るマットの広い背中を見た。
初めて会った時から、自分ももう、彼のことが好きだったのだと思う。
アダムは世界を知らなかった。知っているのは自分の涙と血液目当てに暴力を振るう男だけだった。セックスも強要された。いや、あれはセックスではない。レイプだ。
下の階で銃声を聞いたとき、またどこかに連れていかれて、同じことをされるのだろうと思った。
(でも、マットは違った)
大丈夫ですか?と心配してくれた。自分のために、逃げてくれた。組織のボスまで殺して・・・
(キスしてくれた・・・)
アダムはベッドの中で寝返りをうった。これから二人で生きていく。マットに迷惑をかけないようにしたい。できることを自分で探していかないと。

母さん。見守っていて。

アダムは涙が出そうになった。それを誤魔化すように目を閉じて眠りに落ちた。