天使と僕の美しき日々・6

「マット。お前今付き合ってる人いるだろ」

閉店後。マットはジョゼフに言われて、カップを拭いている手を止めた。テーブルを拭いていたボマーも手を止めて、笑顔を浮かべた。

「え?いつぶり?いいねぇ。どんな人?」

「確か丁度一年ぶりぐらいじゃないか?」

マットは笑った。

「お前、俺に詳しすぎない?」

「当たり前だよ。親友だからな。今度見せろ」

「あー俺も見たいな」

「そんな犬猫のノリで見たがるなよ。二人とも会ったことあるよ」

えっ。とジョゼフとボマーは動きを止めた。すると外の掃除をしていた店長のマシューが戻ってきた。外を指差す。

「ねぇ・・・こないだの神聖な人たちの片方がマットを待ってるよ」

「あ、もう来たのか」

マシューは、にやりと笑った。

「・・・付き合ってんの?彼と」

「彼!!」

「あ、今回男の人なんだ。いいね 」

勝手に騒ぐ二人を他所に、マットは一瞬考える。やがてはにかみながらも、こくりと頷いた。

「・・・はい」

「俺、挨拶してくる!!」

ジョゼフがいきなり外に飛び出した。僕も!とそれ続くボマー。

二人の前に現れたのは、以前黒いコートを着て店に来た、背の高い男だった。あ。と男は二人を見ると笑顔を浮かべた。

 

「こんばんわ。会うのは二回目ですね。アダムです」

 

ジョゼフとボマーは、ぼんやりとしたまま出された右手を握った。

「初めまして・・・」

「お世話になっております・・・」

ジョゼフとボマーはうつろに答えた。白いシャツに灰色のカーディガンを羽織り、ジーンズにスニーカー。リュックサックを背負って夜の街角に立つアダムは、あの時の浮世離れした感じはどこにもなく、しっかりと地面に足を下ろした青年だった。彼から滲み出る優しさと、暖かさにジョゼフとボマーはただぼんやりとアダムを見つめていた。

「アダム。お待たせ」

ぱぁっ。とアダムの顔に満面の笑みが浮かんだ。マットがやって来たのだ。マットは二人を振り替えると、にやりと笑った。うっすら顔が赤かった。

「な、二人とも会ったことあるだろ?」

お疲れさま。と二人は並んで帰って行った。ジョゼフとボマーは、しばらくぼんやりしていたが、ぽつりと呟いた。

「いい匂いがした」

ボマーも頷いた。

「赤ちゃんの匂いだったね」

 

「今日は何をしたの?」

マットの問いに、アダムは嬉しそうに答えた。

「オスカーに手伝ってもらって、初めて花束を作ってみた。緊張したけど楽しかった」

「上手にできた?」

「とっても」

「よかったね」

アダムは随分人間らしくなったと思う。ふわふわした感じはなくなり、しっかりとした口調になった。マットは自分より背が高いアダムの横顔をちらりと見た。

(かわいい・・・)

素直にそう思うマット。自分だけかと思うから恥ずかしい。アダムは自分を好きだと言ってくれるけど、どういう意味での好きなんだろう。

(まぁ、俺の側にいてくれるからいいかな)

「今日の夜は何を食べようか」

「シナモンドーナッツがいいな」

「・・・・君、本当にそれが大好きなんだな」

「だって、初めて食べたものだからね」

「中華にしよう」

「中華もいいね」

二人は手を繋いで歩いて行った。

 

「セックスについて聞きたい?」

オスカーの声がバーの店内に響いて、数人がこちらを振り向いた。マットは慌ててオスカーを制した。ごめんよ。とオスカーは笑ってビールを飲んだ。二人はたまに夜に会って話をするようになっていた。マットは気を取り直すようにビールを飲んだ。

「俺もアダムが好きだし、アダムを俺のことを好きでいてくれる。だから一緒に住んでる。で、俺はその・・・」

「アダムをそういう目で見てる?」

あー。とマットは頭をかいて俯いた。そしてオスカーを見て頷いた。

「そう。抱きたい。けど拒まれたらショックで俺立ち直れない」

はは。とオスカーは笑った。大丈夫。と続ける。

「できるから。俺もできたし」

「あ・・・だよな。君に至っては娘もいるし」

「自然にできるよ」

「うん・・・」

二人は黙ってビールを飲んだ。オスカーはずっと幸せそうに笑っている。

「今日アダムは?」

「ああ。今日はジョゼフの家に蛇とかトカゲ見に行ってるよ。あいつんちいろんな生き物いるから」

「友達もできてるな。よかった・・・」

オスカーはマットの肩を抱いて、ぽんぽん。と叩いた。マットはそれが嬉しかった。