2019-01-01から1年間の記事一覧

Keep Your Dreams・3

「野菜が全然ない」 レンが呆れたような声をあげた。スーパーの野菜売り場は閑散としていた。売っている野菜は色が悪く、小さいものばかりで、値段も普段より倍になっていた。 ハックスはレンの背後で、スマートフォンをいじりながら、いいだろ。と言った。 …

Keep Your Dreams・2

「雨っすねぇ」 クラブのバーカウンターで並んで飲んでいたミタカが、ぽつりと呟いた。 「そうだな」 ハックスはマリファナの入った煙草をくわえて、火をつけた。平日の夜ということもあるのか、客はまばらだ。ドラッグが合法のこの土地のクラブは、ゴキゲン…

Keep Your Dreams・1

ずっと雨が降っている。 ハックスはぼんやりとベランダを見て思った。いつから雨が降っているのだろう。一週間ぐらいか?もしかして一ヶ月かも。 「桜が全然咲かないんだよ。この雨のせいで」 傍らで一緒に眠っていたレンが、ぽつりと呟いた。ハックスは何も…

天使と僕の美しき日々・7

マットはその日休みだった。オスカーに、だったらうちでアダムと夕飯を食べないか?と誘われた。その誘いが嬉しかった。ありがとう。とマットはその誘いを心よく受けた。 (アダムが働いているところが見れるな) マットは浮き浮きとした気持ちでオスカーの…

天使と僕の美しき日々・6

「マット。お前今付き合ってる人いるだろ」 閉店後。マットはジョゼフに言われて、カップを拭いている手を止めた。テーブルを拭いていたボマーも手を止めて、笑顔を浮かべた。 「え?いつぶり?いいねぇ。どんな人?」 「確か丁度一年ぶりぐらいじゃないか?…

天使と僕の美しき日々・5

「僕は天使でした。百年以上この街の移り変わりを見ていました。主な仕事は死にゆく人間を天国に導くことです。あなたと出逢ってあなたを好きになって、人間になりました」 マットはじっと、自分のベッドで眠るアダムを見つめていた。 家に連れてきて、アダ…

天使と僕の美しき日々・4

アダムは一人、ビルの屋上の淵に座っていた。じっと遠くを見つめている。 昼間食べたシナモンドーナッツの味も、コーヒーの味も覚えていない。忘れてしまった。天使に戻ると全て忘れてしまう。 また来てください。 マットの笑顔を思い出す。胸の辺りをアダム…

天使と僕の美しき日々・3

「おい・・・ヤバイぞ」 ジョゼフの言葉に、マットは笑った。 「お前、毎日ヤバイって言ってるからなぁ・・・」 「いいから来いって」 ジョゼフはマットの腕を掴んで、客席に視線をやった。 ここはジョゼフとマットが勤めるカフェだ。客席はカウンターに五席…

天使と僕の美しき日々・2

アダムは天使だ。気づいたらこの土地で立っていた。どれぐらい前からここにいるのか分からない。ただ、何もなかったこの土地に人が住み始め、ビルが建ち、人がどんどん増えていく様子を見てきたから、かなり前からいるのだと思う。 アダムの仕事は、先ほどの…

天使と僕の美しき日々・1

少女は、たった十年の生涯を閉じようとしていた。彼女は今、病院の白いベッドの上で横たわっていた。自力で呼吸できなくなった彼女の口には呼吸器がつけられていた。どんどん心音が弱くなっていく。 母親と父親は、涙を流し彼女にすがりついている。 彼女は…