美大生ドーナル×シングルファーザーアダムの続き

「あそこの美術大学の生徒なんですね・・・」
ドーナルは目の前にいるアダムを呆然と見つめていた。
「僕はこの先にある大学の非常勤講師で・・・社会学を教えています。実は、半年前に妻をを・・・事故で亡くしてまして」
亡くした。という言葉にドーナルは、はっ。と我に返った。
「そうだったんですね。お気の毒に」
ありがとうございます。とアダムは笑った。
「最初の一ヶ月で泣くのは終わらせました。僕はローズを立派に育てあげないと」
真面目だな。とドーナルは思った。どこまでも真面目だ。真剣さを感じる。深緑のセーターに、黒いスラックスという姿も清潔感がある。癖のある髪は肩まで伸びているが不潔な感じはしなかった。アダムの袖口を見ると小さな穴が開いていた。ドーナルは愛しい気持ちになる。多分穴にも気づかずに毎日目まぐるしく生活をしているのだろう。ドーナルは聞いた。
「ローズちゃんは何歳ですか?」
「もう二歳になります。最初はパートのシッターさんに頼んでいたんですが、最近保育園に行くようになりました。そしたらシッターさんが結婚して田舎に帰ることになりまして・・・今だけ僕が時短で働いて、ローズの面倒を見ています」
「時短も大変ですね」
はい。とアダムは頭をかいて頷いた。
「正直大変です。だからいっそのこと住み込みで働ける人を募集しようと思ったんです。ローズの面倒を見てくれる人を。僕の家は幸い大きくて一人なら住まわせられるし、食事付きで・・・・お給料はあんまり出せないけど・・・」
「給料はいらないです」
ドーナルはアダムの顔を見て言った。きょとんとするアダム。
「俺のアパート、取り壊されるんです。住むところもなくなってしまうんです。俺が責任持ってローズちゃんの面倒見ますし、食事もつけてくれるなら他に何もいらないです。だから」
ドーナルはアダムの手を握った。
「俺を、雇ってくれませんか?」
アダムは、こくりと頷いた。
「は、はい・・・・お願いします」
晴れてドーナルはアダムの家に住むことになった。ローズは金髪の可愛らしい女の子で、ドーナルにすぐに懐いた。
与えられた部屋はワンルームぐらいの広さで、快適だった。
(前より絵がかける時間ができるぞ。個展に出す作品も集中できる)
ドーナルは浮き浮きと自分の荷物を運び入れながら思った。それに・・・
ドーナル。とアダムが入ってきた。
「大丈夫?手伝おうか?」
「アダム。大丈夫だよ。ありがとう」
「今お湯を沸かしたんだ。コーヒーでもどう?」
「ありがとう。もらうね」
キッチンに向かいながらドーナルはアダムの後ろ姿を見つめた。気負わず名前で呼び合って、敬語も使わないでいこう。とアダムに提案されて、ドーナルは嬉しく思った。
(寝癖がついてる・・・)
ドーナルはそれに気づいて、胸が高鳴った。朝忙しくばたばたとローズを保育園に送って行ったのだろう。そう。アダムは・・・・アダムは
(めちゃくちゃかわいいんだよなぁ・・・・この人。なんか)
ドーナルは幸せを感じていた。いつかアダムは再婚するだろう。それまでずっといたい。とドーナルは思った。