美大生ドーナル×シングルファーザーアダムの続きその3

一ヶ月が過ぎようとしていた。ドーナルはローズを世話して、思う存分絵画制作に没頭した。ただ、どうしても個展の作品ができない。イメージはあるのだが、形にならない。ドーナルはため息をついてキャンバスを見つめた。
「だめだ・・・こんなんじゃ・・・」
ドーナルは窓を見る。ここは前住んでいたところより、日当たりがいい。自分は本当についてるなぁ。
「よし」
ドーナルは椅子から立ち上がった。

「えっ?僕がモデルに?」
動揺するアダムをドーナルは制した。
「そうなるよね。わかるよ。だから気負わないで普段通りにしてほしい。俺のことは気にしないで」
「いや、でも・・・」
「パパ。どうしたの?」
ローズがやってくる。ドーナルはしゃがんでローズと同じ目線になった。
「そうだ。ローズも一緒に描いていいかな?モデルさんになってください」
「モデル、さん?」
「今から、パパと君を描かせてほしい。お礼に・・・きかんしゃトーマス描いてあげる」
「トーマスかいてくれるの?いいよ!」
ドーナルとローズのやりとりに、アダムは笑ってしまった。
「モデルにならざる得ないな。僕はトーマスが描けないから」

暖かな光が窓から差し込むリビングの床に座り込んで、ローズはトーマスのおもちゃで遊んでいる。アダムはトーマスが走る線路を組み立てている。ドーナルは少し離れたところでクロッキーを始めた。
ローズは懸命に遊び、父親にトーマスの絵本も読んでくれ。とせがむ。アダムは優しく、低い声で絵本を読んでやった。
ローズに向ける、優しい眼差し。ローズの頭を撫でてあげる、アダムの大きな手・・・ドーナルはそれらをスケッチし続けた。
ふと、アダムと目があった。アダムはにこりと微笑んだ。
ドーナルはその瞬間持っていた鉛筆を落とした。ローズが向こうに新しい絵本を取りに行ったのを見計らって、自分も床にへたりこむようにして、アダムに近付いた。床にあぐらをかいていたアダムの膝に手を置いた。
「ドーナル?」
「好きだ」
「えっ」
「アダム、君が好きだ」
「パパ。次これ読んで」
ローズが戻ってきた。ドーナルは立ち上がるとスケッチブックを抱えて転がるようにリビングを出て行った。アダムは呆然とその後ろ姿を見送っていた。
「パパ?」
「あ、ああ。ごめね。読んであげるよ」
アダムは我に返ってローズを膝にのせた。