詐欺師ていたむ×執事あだむの続き

三日後、俺は再びヴァイオレット夫人の屋敷に向かった。
「いらっしゃい。マット」
優しく俺を迎えてくれる夫人。俺は夫人を抱き寄せて頬にキスをした。アダムは相変わらず表情なくこちらを見ていた。
リビングに通されてくつろいでいると、アダムが電話を持ってやってきた。
「奥様。マーガレット様からお電話です。こちらに向かっているそうです」
「まぁ。マーガレット!いきなりどうしたの?」
「こちらの別荘で過ごすようです」
夫人はアダムから電話を取ると、俺見た。
「妹なの。昔っから人を惑わしてばっかり」
ごめんなさいね。と夫人は部屋を出て行ってしまった。部屋には俺とアダムが残された。アダムは部屋を出ようとするので、俺は待って。と声をかけた。
「何で俺が詐欺師だと分かった?」
アダムは俺を見て言った。
「奥様に渡した企画書を全部読んだ。あんな上手い話はない」
はは。と俺は笑った。
「何で夫人に言わないんだ?騙されてますよって」
「夫人はあんたを愛しているから僕の言うことなんか信じてくれない」
それに、とアダムは口をつぐんだ。何だ。と俺は立ち上がる。アダムは俯いている。黒い髪の毛をかけた耳が赤くなっている。俺はそれを見逃さなかった。俺はアダムの腕を掴んだ。
びくりとアダムは顔をあげて俺を見た。目が泳いでいる。俺は笑ってアダムの髪の毛を撫でた。女の子にするみたいにだ。アダムはじっと動かない。俺は耳元で囁いた。
「聞かせてくれよ。アダム」
「・・・・警察に言ったら、あんたは捕まってしまう。そうしたら会えなくなる」
顔を赤くして、震える声でアダムは言った。目は潤んで泣きそうになっている。俺はアダムの赤い唇をじっと見た。ルージュをしなくてもきれいで、セクシーだと思った。
アダムは俺の腕を振り払うと、リビングを出て行ってしまった。入れ違いのように夫人が戻ってくる。
「ごめんなさいね。マット」
いえ。と俺は笑みを浮かべて夫人を見た。
「アダムはいい執事ですね。どれぐらいになるんです?」
「そうね。いい執事だわ。もう十年になるわね。どうかした?」
「いえ・・・」
俺はこの事態を楽しんでいる自分に気付いた。どっちに転んでもおもしろいことになる。
俺は自分のことを絶対成功すると信じていた。俺は失敗はしない男だ。