詐欺師ていたむ×執事あだむの冒頭

「僕にまかせてください。あなたの資産を守りますから。むしろ倍にしてみせる」
ヴァイオレット婦人はうっとりと俺を見つめた。七十九歳にしては美人なほうだと思う。目と唇は整形してるし、オッパイもシリコンが入っているけど・・・元が美人なんだな。
「ミスター・テイタム・・・あなたに全てを任せるわ」
「ミセス。俺のことは気軽にマットと呼んでください。もうそんな関係じゃない」
俺は婦人の手を握った。婦人はますます俺をうっとりと、溶けるような瞳で見ている。
(今回も上手くいきそうだな・・・)
俺は婦人を見つめて微笑んだ。腕時計を見る。
「あぁ。こんな時間だ。また来週に伺います」
「あら。そうね。ごめんなさい。アダム!アダム!」
奥から背の高い執事がやって来た。眼鏡をかけた執事は、俺をちらりと見てすぐに視線をそらした。
「マットがお帰りになるわ。お見送りしてちょうだい」
「かしこまりました」
部屋を出て、玄関までアダムと二人だけになる。出逢って一ヶ月ぐらいだが、表情に乏しく、何を考えているか分からない。洗練された所作と、無駄のない仕事ぶりに、アダムは優秀な成績で執事学校を卒業したのだろう。
「それでは、僕はこれで」
俺が屋敷から出ようとすると、アダムが言った。
「詐欺師だろう。あんた」
俺は笑顔を浮かべたままアダムを見た。アダムは表情を変えずに俺を見ている。
「奥様の資産を根こそぎ持っていくつもりだろう。僕は分かっているんだ」
「・・・失礼します」
俺は屋敷を出た。なるほど。気付かれていたか。俺は車を運転しながら思惑を巡らせていた。
「どうする?考えるんだ。マット。これを乗り切ったらマイアミだぞ」