詐欺師ていたむ×執事あだむの最終章

俺は三日開けて、ヴァイオレット夫人の屋敷に夕方向かった。インターフォンを押す。
『はい』
「俺だ。アダム。門を開けてくれないか」
インターフォン越しでもアダムの動揺が分かった。
『・・・今日、奥様はいない。何の用だ』
「知ってる。三日間妹のところの別荘で過ごすんだろ。今日はアダムに会いに来たんだ。開けてくれ」
『・・・入れ』
門が開いた。俺は屋敷の中に足を踏み入れた。

俺を迎えてくれたアダムは、メインクーンの白い大きな猫を抱いていた。俺は猫の頭を撫でる。
「やぁ。スターキティ。アダムに抱かれていいな」
夫人の大事な猫を留守中もしっかりと世話をするアダム。いつもスーツを着ているが、今日はシャツにジーンズとラフな格好だ。
「奥様の大事な猫だからな・・・」
「そうだな」
スターキティを床に降ろす。猫は優雅に向こうの部屋に行ってしまった。アダムは自分の左腕を右手でさすっている。緊張しているようだ。
「今日は何の用で来たんだ」
「取引をしようと思って」
「えっ?取引?」
「君を抱かせてくれたら、俺は夫人の財産には手をつけない。そのまま消える。君はいつまでも夫人と幸せに暮らせる。君が嫌だと言ったら俺は夫人の財産を根こそぎ持って消える」
唖然とするアダムに、俺はウィンクして笑った。
「中々いい取引じゃないか?」
アダムは唇を噛みしめた。あの時と同じように顔が赤い。俺は笑う。勝負はいつも俺の勝ち。人生は全て俺の物。
「あんたは詐欺師だ。信じていいのか?」
震える声でアダムは言った。俺は頷くと、ポケットから手帳を取り出して文字を書き付けた。
「俺はマイアミのこの住所に行こうと思ってる。もし会いたくなったら来るといい」
これは。と俺はアダムをたしなめる。
「君を抱かせてくれたらあげるよ」
「そうやって・・・騙してばっかりなんだろ・・・」
ぽろ。とアダムは涙を零した。俺はアダムの眼鏡を外した。アダムの涙がたまった目元に唇を寄せる。ふ。とアダムは俺を見た。俺はアダムの唇に触れた。
「俺は本気だよ」
アダムの唇にキスをした。自分に引き寄せる。唇を離すとアダムはとろんとした目で俺を見た。唾液で濡れた唇をうっすらと開けて俺の腕を掴んだ。
「僕の・・・部屋に」
「何だ。ここでもいいのに」
「ここはだめだ。奥様の大事なリビングだから」
こんなときまで真面目なアダムに、俺は笑ってしまった。

ベッドに倒れ込む。俺はアダムのシャツのボタンに手をかけた。はっ。と身じろぎするアダム。俺は笑った。首筋にキスを落とし、耳たぶを甘噛みする。ぎゅっ。とアダムは目を閉じた。
「緊張してる?」
「こ、こんなこと初めてだし・・・・」
「緊張しなくていい。俺に任せて」
舌を絡めてキスをする。くちゅ。ちゅ。と何度も音を立てて。アダムはすっかり俺の腕の中で溶けている。俺もスーツを脱いで、上半身裸になった。俺の腹に手を伸ばすアダム。
「どうしたの?」
「・・・セクシーだな・・・」
「ありがとう。アダムもきれいだよ」
アダムは笑う。俺はアダムの鎖骨や白い胸にキスを落とし、痕をつける。胸を揉みしだき、ぐり。と親指で乳首を潰すように刺激する。片方は舐めあげ、口に含み舌で転がす。
「あ、ぁ、う・・・・んっ・・」
俺の愛撫に悶え、枕に顔を埋めるアダム。素直にきれいだと思う。
「いい声だ。もっと聞かせて」
俺はアダムのペニスに手を伸ばした。はぁ。とアダムは甘いため息をつく。
ゆっくりとアダムのペニスを扱く。アダムは俺の背中に腕を回し、ぎゅう。と抱きついてくる。かわいい。先走りの液が俺の指先を濡らす。そのままアダムの尻の間に指を滑りこませた。
「ひ、ぁ」
「こっちも良さそうだね。天国見せてあげるよ」
普段の仏頂面からは考えられないぐらい、惚けたアダムの顔。上気した頬に、涙が伝う。
「最後、なの?」
アダムはじっと俺を見つめる。俺は笑みを浮かべた。

一晩中俺たちは愛し合い、何度も何度も抱き合った。次の日の朝、まだ寝ているアダムを残し、俺は屋敷を後にした。背中を向けていたけど、多分起きていたのだろう。
俺はマイアミに向かった。俺はマイアミで暮らすのが夢だったのだ。テーブルに置いたマイアミの住所のメモに、アダムは気付いてくれるだろうか。俺はそれが楽しみだった。車を運転しながら俺はほくそ笑む。
「分かってるけどな」

一ヶ月後、俺はマイアミのビーチを一人歩いていた。きれいな夕方だった。立ち止まって海を眺める。ここでしばらく暮らすつもりだった。
ふと、隣で海を眺めている人物に気付いた。俺はそれが誰か分かっていたからしばらく海辺を眺めていた。
「きれいな海だろう?マイアミの海は初めてか?」
俺は人物に聞いてみる。人物がこくりと頷いたのが分かった。俺はしっかりと隣の人物を見た。
「眼鏡、してないな。もう眼鏡はやめたのか?アダム」
隣にいたのはアダムだった。髪の毛も短く切っている。アダムは顔を赤くして頷いた。
「コンタクトにした・・・変かな」
「変じゃない。素敵だよ」
俺はアダムに近づいて、自分に引き寄せた。強く抱きしめる。アダムは俺の腕の中で目を閉じて笑った。
「詐欺師を信じて来ちゃったよ・・・」
「よく来たね。アダム。信じて来てくれたんだね」
俺はアダムの目を見て言った。
「愛してる」
ふふ。とアダムは笑った。
「今まで何人に言ったんだ?」
「君だけだよ」
アダムは笑顔を浮かべたまま俺にキスしてきた。俺はアダムを強く抱きしめる。

マイアミはやはり、天国だった。