Dementia・10

アダムの日記から

怖い。嫌だ。誰か助けて。ムースを抱きしめて僕は一人泣いている。ドーナルは僕に気づかないふりをしてリビングでテレビを見ている(最近は再放送ばかりだ)僕は一人でバスルームで泣いている。ムースも僕がおかしいことに気付いてじっと抱かれるがままだ。たまに涙を舐めてくれる。
「ドーナルのことが好き?」
僕はムースに聞いてみる。ムースは尻尾をふわふわと振っている。僕は涙を拭う。
僕は生きよう。最後までドーナルの側にいる。ドーナルを見届ける。僕がドーナルを守る。
怖くて、悲しいけど。
僕は大丈夫だ。

少しでも、一緒にいたい。

神様。僕らを守ってください。

 

ドーナルの日記から

頬に穴が空いてから三日目。頭がいたい。いやな予感がするからバスルームで書いている。
アダムは、か、買い物にでかけている。犬、ムースと一緒。
腕がいたいな。変な字しか書く、かけない。目が痛い。かがみを見ると真っ赤だ。うさぎの目。
風邪をひいたときみたいに、体じゅういたい。痛くもなかったのに、今、すごくつらい。

(判読不能の文字の羅列)

口から血がでてきた。右の目が出てきた。ゆかにぼたりとおちた。床が真っ赤。鼻からも出て、耳からも出た。ははは。
ごめん。
腹へった。

たのしかた。

いちばんきれい。アダム。

好き。愛してる。世界で一番だよ。ごめんね。スケベで馬鹿な男で。アダムに会えて良かった。また生まれ変わったら会おう。君は強いから大丈夫だろう。次は君に守ってもらおう。
愛してる。君とキスできてよかった。セックスできて良かった。

愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。これ、読めるかなぁ。

アダム。愛してる。


(これより文字は完全に判読不能。大量の血液でノートは汚れている)