TITANIUM・3

「鉱物の人種は太古より人類とともに生存していた。人類との関係は搾取する側と、される側であった。鉱物の人種は囚われ、虐殺された。流した涙、血液に人々は群がり、死体も高値で取り引きされた」

マットはそこまで読んで、ため息をついた。パソコンで「鉱物の人種」の歴史を調べていた。ニ、三時間ソファーで眠って、目を覚ましてコーヒーを飲んだ。時間は十一時を過ぎようとしている。アダムが眠っている部屋の扉を見つめる。マットは座っていた椅子で背伸びをすると、立ち上がり、家を出た。向かう先は近所のパン屋だった。

アダムは、ベッドの中でふと目を覚ました。寝覚めは良かった。
(焼きたてのパンの匂い・・・)
アダムはベッドから降りると、バスローブを羽織って部屋を出た。
「おはようございます」
テーブルの上にパンが用意されていた。マットは笑って言った。
「パンを買ってきました。よければどうぞ。コーヒーは好きですか?」
「・・・ああ」
アダムは椅子に座った。焼きたての食パンと、一緒に添えられたバター。
「コーヒーには砂糖とミルクは?」
「いらない・・・」
アダムはトーストを食べた。優しい旨みのある食パンだ。
「美味いな」
「良かった」
向かいに座って、マットも食べた。眠気と疲れがあるのかアダムはぼんやりとしている。ふ。と笑った。
「いつまでこんな生活できるんだか。早く終わらせてほしい」
「え?」
「搾取するんだろう。どんなやつらなんだ」
「分かりません・・・」
事実だった。「上司」がアダムの部屋を用意したらもう二度と会えないだろう。マットは手を止めた。

二度と会えない・・・

「ちょっと出かけてきます」
「どこに?」
マットは上着を着ると、ただ笑みを浮かべるだけだった。部屋を出て、マンションの地下に向かう。運転しながら携帯で電話をかける。
「もしもし」
『どうした。珍しい』
出たのは「上司」だった。
「お話があります。今向かっています」
『分かった。おいで』
マットは電話を切ると、前を向いた。ハンドルを握り直して、ため息をついた。

「上司」はいつもマットと、ジョゼフに指示を出す部屋にいた。豪奢なデスクと、椅子がある部屋。床には赤い高級絨毯。上司は窓の外を眺めていた。部屋に入ったマットを見ることはなかった。
「おはよう。マット」
「おはようございます」
「何もかあったのか?」
「単刀直入にお伝えします」
マットは上司の背中を見つめ、言った。
「アダムを、俺だけの物にしたい。あなたには渡したくない」
「何故だ」
上司は窓の外を見つめたまま言った。マットは揺るぎなく答えた。
「彼を愛しているからです。もう、誰からも搾取させない。アダムを俺は守りたい」