きみはぼくのおんなのこ・2

僕たちが向かったところはバーではなかった。僕は心の中で舌打ちをした。

(クラブじゃないか・・・)

スタッフたちも笑って、何がバーだ!本当に適当だな!と騒いでいる。薄暗い室内に、赤や青の電飾。大音量のEDM。バーなんていうから期待していたのに。僕が苦手な場所だった。

僕たちは奥の席に通された。スタッフたちが気を使ってくれたのか、一番奥のソファー席に通されたのは僕と彼だけだった。主演同士だからか。そんなことしなくていいのに。半分個室みたいになっている。薄暗い席に僕らは並んでソファーに座った。
「何飲む?」
彼は僕に聞いてきた。僕は大音量でかかっているニッキー・ミナージュのリミックスに軽く頭痛を覚えながら、テキーラをショットで。と笑顔を浮かべて言った。僕は大人だから我慢しないと。本当はジャズがかかっている静かなところに行きたい。彼は笑った。
「へぇ。意外にいけるじゃん。俺もそうしようっと」
バーテンダーに注文する彼。僕はふと、彼とこんなに近づいたのは初めてで動揺した。昔からそうだった。自分よりすてきな人間が近くにいると無駄に緊張してしまう。僕はなるべく彼を見ないようにした。ふと彼が言った。
「クラブとか嫌い?」
悟られた。僕は首を横に降った。
「そんなことない。好きだよ」
彼はいきなり声をあげて笑った。僕がびっくりしていると、ぽん。と肩を叩かれた。
「無理すんなよ。ほんときみってかわいいな」
テキーラがやってきた。彼はやったぜ!とグラスを受け取り、僕にひとつくれた。ハンサムな笑顔を浮かべてグラスをかかげた。
「乾杯しようぜ」
僕と彼は乾杯した。緊張してたし、苦手なクラブだし僕はショットで何杯飲んだ。彼もけっこう頼んでいたがあまり顔色も変わらず、笑っていた。僕はだんだん楽しくなってきた。
自分が兵役していたときの話とか、奥さんの話や、ムースの話をした。彼もいろいろ話してくれた。僕は言った。
「君はこういうクラブはすきだろ」
ああ。と彼は笑った。
「だって前こういうとこで踊ってたんだぜ」
彼はおおっぴらに自分の過去を話す。こっちがびっくりしてしまうぐらいだ。彼は笑ってモスコミュールを飲んだ。
「俺は自分のことを世界で一番かっこいいと思ってるし、過去の自分も最高だと思っているんだ」
「君って、ほんとにかっこいいな」
僕は素直にそう言った。急に眠くなってきた。はは。と彼は笑った。
「ありがとう」
ほんの近くに彼がいた。僕はとろりと体が溶けるような感覚を覚えた。やばい。飲み過ぎた。
LMFOのパーティーロックアンセムが流れてきた。はは。と彼は僕の耳元で笑った。
「俺、この曲すごく好きなんだけど、君は?」
僕はため息をついた。
「大嫌いだ。こんな曲。でも・・・・僕は、マット、君のことが大好きだ」
僕とマットは見つめあった。やがてマットは、ふ。と笑った。
「やばいな。君、自覚ないだろ。自分の魅力」
「みりょく?」
僕は半分眠りそうになっていた。マットは僕の髪の毛を撫で言った。
「アダム。俺もきみが好きだ。大好きだよ」
マットはそう言うと僕にキスをしてきた。僕はマットキスされたのが嬉しくて背中に腕を回して抱きついた。