パーフェクト・ディ・2

マルホランド・ドライブで、娼婦の惨殺死体が発見される」

リックは新聞の見出しに、眉をひそめた。最近はイカれた事件が多い。リックは煙草を吸って呟いた。
「ひでぇ事件だな」
「リック。その娼婦、口から上がないらしいぞ」
リックは読んでいた新聞を目の前から下げた。隣を見る。
クリフはサングラス越しにこちらを見ていた。リックを見て、にやりと笑う。手には小さなパラソルがついたカクテルのグラス。リックは思わず笑った。
「何でそんなこと知ってんだよ」
「俺が犯人だからだよ」
「怖いな」
二人はプールサイドで、寝そべっていた。デッキチェアでだらだらと何をするでもなく、太陽の光を浴びて酒を飲み、だらだら過ごす。二人だけの時間だった。ビーチパラソルが、ぱたぱたと風になびく、クリフはそれを見ている。リックもパラソル付きのカクテルを飲んだ。なあ。と隣の相棒に声をかける。
「口から上がないって事は、下顎だけあるのか?」
「そうだよ」
「無理だろう」
「以外にいけるぜ。この娼婦が小柄な女だったら尚更。下顎と上顎を掴んで、よいしょっ。て上下に引っ張るとべキッて外れる」
「クリフ」
顔をしかめたリックに、クリフは笑った。つけっぱなしのラジオからは、サイモンアンドガーファンクルの歌声が流れている。
「ボス、調子は?」
「今の仕事は脇役だし、怖い夢を見たから調子が悪い」
「そうか」
クリフは何も言わなかった。ただ黙ってこっちを見ているだけだ。いつもクリフはそうだった。調子が悪いと伝えただけなのに、気持ちが軽くなっていた。リックは聞いた。
「二日間の休みはどうだった?」
マリファナをキメてぼうっとしてた」
「ヘイ。貴重な二日間をデートもせずに、だらだらしてたのか?」
「あとはブランディと遊んでた」
「楽しかった?」
「とーーーっても」
二人は声をあげて笑った。あ。とリックは思い出す。
「今から映画やるんだ。真夜中のカーボーイ。観ようぜ」
「ボスが観るものなら、何でも観るぜ」
リビングに戻る。クリフはリックからグラスを受け取るとバーカウンターの中に入った。
「また冷たいのを作ってやるよ」
「ありがと」
リックはソファーに寝そべり、テレビをつける。カウンターの中からクリフは聞いてくる。
「スムージーは飲んでたか?」
「飲んでたよ。偉いだろママ?」
「いい子だ」
クリフは笑う。カクテルのグラスを持って、クリフはソファーに座った。リックにグラスを差し出す。それを受け取るリック。クリフはテレビの画面を見た。
「哀しい映画?」
クリフの問いに答えず、リックは画面を見つめる。カーボーイルックのジョン・ヴォイドが歩いている。リックはぽつりと言った。

「多分、哀しい映画」