December・5
その日は仕事が休みで、アダムは町に買い物に出掛けようとハイウェイをピックアップトラックで走っていた。時刻は夕方になろうとしていた。殺したばかりの女もいるししばらく殺さなくてもいい。ヒッチハイカーは無視しよう。アダムは一人そう思っていた。 地平線に沈む夕陽をぼんやりと眺めながら走っていると、アダムはふと、路肩に停まっている車を見つけた。それは異様だった。
「えっ・・・セダン?」
欧州の高級車セダンが停まっていた。あまり知識のないアダムでさえ、何千万もする高級車だということはすぐに分かった。
「旅行者・・いやここ観光地ないだろ・・・なんだ・・・」
横を通りすぎたとき、セダンのボンネットを開けて中を覗きこむ痩せた男の姿が見えた。アダムはそのまま通りすぎようとしたが、トラックを停めた。
「クソッ・・・ついてねぇよ本当に・・・」
ドーナルは舌打ちをしてセダンのボンネットを覗きこんでいた。アンの死体をトランクにいれて捨てに来たのだが、バッテリーがあがってしまった様だった。運転することが不可能となり、路肩に停めてボンネットを開けた。 だんだん暗くなってきて中の様子も見にくい。アイフォンのライトで中を照らしていると、一台のピックアップトラックが砂ぼこりとともに横を通りすぎて行った。一瞬どきりとしたが、通りすぎて行ってくれてほっとした。だが、背後で、キッ。とブレーキを踏む音が聞こえた。 キィ。とトラックのドアが開き、誰かが降り立った。バタン。とドアが閉まった。砂利を踏みしめる足音が近付いてくる。ドーナルは舌打ちをして下唇を噛み締めた。
「クソが・・・」
ぽつりと前を見ながら悪態をついた。
「大丈夫か?」
アダムは男の背中に声をかけた。痩せて背の高い男だった。白いポロシャツに、ジーンズというカジュアルな格好だった。男は振り向いた。赤毛で、青い目の優しそうな男だった。ああ。とアダムは理解した。ここから一時間ぐらい離れた都市部の男だ。もしかして一等地から来たのかもしれない。ああ。と男は軽く片手をあげた。
「バッテリーが上がってしまったのかもしれなくて・・・参りました」
「たまに車の整備をしてるんだ。見てやろうか」
アダムは男に近付いた。清潔な男。自分みたいに油臭くもないし、汗くさくもない。洗練された都会の男・・・ふと、腕や太股をちらりと見る。アダムは二、三回男も食べたことがある。でも女に比べて筋っぽく、旨くはなかった。
(こいつもそんなに旨くなさそうだな。でも尻は小振りだからステーキにすると旨いかも)
アダムはそんなことを思いながら、男の隣に立ってボンネットの中を見た。
「どうですか?」
「ああ・・・確かにバッテリーがあがってる。ブースターケーブルをつなげればいいが・・これは高級車だから、レッカーして見てもらったほうがいいかもしれない」
「そうですか・・・ありがとうございます」
「この辺りは知ってるのか?」
男は肩をすくめた。アダムは、ふん。とため息をつくと腕を伸ばした。
「俺は携帯を持ってないんだ。かけてやるから貸せよ」
「助かります。ここは車道側で危ないから、運転席側にまわりませんか。そこでかけたほうが集中しやすい」
「・・・そうだな」
ふと、アダムは顔をあげて、視線を何気なくトランクのほうにやった。ひらり。と何か布のようなものがトランクからはみ出ていてる。アダムは訝しげにそれに近付いた。 女が履くようなシフォンスカートの裾がトランクの扉に挟まってはみ出ていた。アダムの心臓が緊張できゅっ。と締め付けられた。一緒にはみ出ているのは、金髪の髪の毛だった。間違いない。わかる。アダムも何人も見た。これは人間の髪の毛だ。
「動くなよ」
いつの間にか男はアダムの背後にいた。バチン!!!!バリバリ!!!!という放電される音が聞こえる。アダムは息を飲んだ。背後の男の手には大きなスタンガンが握られていた。
「そうだ。それはあんたが思っているように人間だよ。だからこの場所は誰にも知られたくないんだ。あんたが賢ければこのスタンガンは使わないからおとなしく」
男の言葉は途中で途切れた。右の太股に違和感を感じて、太股を見た。 ナイフが深々と刺さっていた。男はアダムの背中と、それを交互に見て絶叫した。 この男に刺された!!
「ぎゃあああああああああああ!!!!!!クソがあああっっ!!!!!」
アダムはスタンガンを持っている男の手を蹴りあげて、スタンガンを地面に落とした。男は手を押さえて地面にうずくまった。アダムをきっ。と見上げた。そこでアダムは初めて笑った。
「あんた・・・同業者か」
「は?」
「女か?死体は。だったら俺が処理して食ってやろうか」
アダムは子供のように無邪気に笑った。男は呆然とアダムをみていたが、とりあえず。と自分の右太股を指差した。
「取れよ。いてぇんだよ・・・そんな重そうな体して動きは素早いんだな」
ああ。とアダムは男の太股に刺したナイフに手をやった。男はさっきとは別人のように不機嫌な顔をしている。それはそうだろう。きれいな顔をしている男だな。と思った。
「俺はアダム。あんたは」
「・・・ドーナル」
「ドーナル。抜くぞ」
アダムはナイフを引き抜いた。ハイウェイにドーナルの悲鳴が響いた。