December・3

「こんばんは」

女が顔をあげると、赤い髪の毛をした男が微笑んでいた。女も笑った。この高級クラブにいるということは、この男も「それなり」の男なのだ。女は自分の美しさや、身分に自信があったので、自分にふさわしい男としか付き合わなかった。女も笑みを返した。 男と女はカクテルを飲みながら、自分の身の上のことや、仕事のことを話した。聞けば男は、証券会社のサラリーマンだが、父親が貿易会社を営んでいたそうだ。女は話を聞きながら頭の奥で考える。男が勤める会社も上昇企業だ。そしてこの一等地に住める資産の持ち主。顔もハンサムだし、優しそうだ。このバーは一夜限りの相手を探す場所でもある。女はカウンターに置かれた男の手の上に、自分の手を重ねた。男の腕にはロレックスの時計。完璧だ。男は優しく微笑んだ。ねぇ。と女は男に顔を近づけた。

「あなた・・・アルビノ?目の縁がピンク色ね」

はは。と男は朗らかに笑った。

「よく言われるけど違うよ。色素が薄いだけさ」

「そう・・きれいね」

「君もきれいだ。その金髪に青い目・・・」

「ありがとう」

見つめあい、そっとキスをする。唇を離すと男は恥ずかしそうに笑った。その仕草が純粋で、女は胸が高鳴った。

「私はアンよ。あなたは?」

「ドーナル」

「あなたの部屋に連れって」

「ああ」

ドーナルとアンは手を取り合って部屋を出た。

 

ベッド倒れこみ、アンとドーナルはキスをする。ドーナルはアンの耳元で囁いた。

「きれいだ。よく言われるだろう」

ふふ。とアンは笑った。ドーナルも笑う。

「何も答えないのはずるいぞ」

二人は服を脱がしあって、抱きしめあう。痩せた男だと思ったけど、服を脱ぐとドーナルは大柄で、たくましかった。アンはそこにも興奮して、ドーナルの胸に手を這わせた。ふと、ドーナルはアンの目の上に赤い布を被せた。やだ。とアンは笑った。

「なぁに?目隠し?」

ドーナルも笑う。

「こうすると感度がよくなって気持ちよくなれるよ」

アンは笑った。ドーナルはその赤いルージュが塗られた形のよい唇を見つめながら、枕の下に隠してあった荒縄を取り出して、アンの首にするりと巻いた。手慣れた仕草だった。アンは自分に何が起こっているか分からなかった。ドーナルは紐の両端を掴み、思い切り締め上げた。

「ぐぎぇっ」

アンは喉の奥から潰れた声をあげた。体を悶えさせて、自分の首に巻かれた紐を取ろうとする。ドーナルは全体重をかけて、アンの首の紐を締めあげた。つけっぱなしのiPodからは、マルーン5の「シュガー」が流れている。軽快なリズムと、ボーカリストの甘い声の中、アンは息絶えた。 する。とアンの首から紐を解いて、ドーナルはため息をついた。挿入したままだったのでそのまま行為を続けた。愛しい気持ちが募る。

「エリ。久しぶりだね。きれいだよ。エリも逢いたかったよね。僕に」

ドーナルは、アンではなく、死んでしまった自分の妹の名前を呼びながら腰を動かした。死んでも尚アンはドーナルに凌辱された。アンはドーナルの好みだった。痩せていて、金髪で色白。エリもそうだった。ドーナルと同じ青い目をして、笑ってドーナルを受け入れてくれた。

「兄さん。大好きよ」

「俺もだよ」

ドーナルは達しながらアンの唇にキスをした。エリの声はいつでも聞こえる。ドーナルはアンから離れて、ベッドから降りた。アイフォンを手に取り、カレンダーを確認する。

「今日で五人目。うん。いいペースだな」

今年に入ってドーナルは五人をこうやって殺した。そのうち二人は男だった。エリに似ていれば男でも女でもどちらでも良かった。しばらく死姦を楽しみ、死体はここから車で一時間ぐらい離れたテキサスの砂漠の中に捨てた。ドーナルのDNAが特定されないように、捨てる前は死体の性器や肛門付近をよく洗浄した。

ふと、振り向くと、アンではなく、エリが裸でベッドに横たわっていた。白い裸は無垢だった。十五才の大人になりかけた少女の裸は美しく、ドーナルは泣きそうになった。 エリの裸にはバラの花弁が舞い落ちている。うっすらとエリは目を開けた。そして言った。

「兄さん。もう一度抱いて。あのときみたいに」

このときだけ、エリに逢える。ドーナルはこくりと頷いた。

「分かったよ。エリ」