きみはぼくのおんなのこ・3

僕は同性とのキスは初めてだった。マットは僕の太ももにまたがって、僕にのしかかるようにキスをしてきた。

( 気持ちいい・・・・)

素直にそう思った。たぶん雰囲気的にマットは同性とセックスをしたことがあるだろう。上手だし、慣れていると思った。 マットの舌が僕の舌に絡まってくる。

「 ふ、う・・・・」

ぞく。と背中が快感で震えた。僕たちはパーティロックアンセムのBGMの中、何度もキスをした。 唇が離れると、マットは僕の額に軽くキスをして僕から離れた。僕がぼんやり呆けていると、マットは僕の耳元で囁いた。

「俺の部屋わかるだろ。来いよ。待ってるから。続きしよう」

僕はマットの瞳を見た。ぐらぐする視界と、赤や青の光の中、マット・・・チャニング・マシュー・テイタムはとてもハンサムでセクシーに笑みを浮かべていた。僕は笑った。

「マットがかっこよくて鼻血でそう」

「あはは」

マットは僕の唇に再びキスをすると行ってしまった。僕がぼんやりしていると、入れ違いぐらいにスタッフがやって来た。

「アダム。生きてる?大丈夫?」

「大丈夫。生きてるよ」

「あれ?マットは?」 スタッフの言葉に、僕はぼんやりと呟いた。

「先に部屋に戻ったよ」

 

ピー。という洗濯機の音に僕は現実に引き戻された。胸がどきどきしている。

(ああ・・・・)

ここまで思い出してしまったら、もう止まらない。顔がどんどん赤くなる。アダム。あなたって照れると耳まで赤くなるのかわいいわ!と笑う奥さんの言葉がよぎる。 あのときも耳まで赤かったんだろう

「洗濯物・・・」

そう呟きながらも、僕は自分のジーンズのボタンを外した。こんな朝から!リビングで!三十四才にもなって!!ともう1人の僕がぎゃあぎゃあ騒いでいる。

僕はあのあと、マットの部屋に行った。 扉を開けたマットは、僕を見ると優しい笑みを浮かべてくれた。 よく来てくれたね。 手を伸ばしてきて、僕の髪の毛に触れてきたマット。耳が赤いよ。と笑った。そしてもう一度キスしてくれた。

僕はその時を思い出しながらトランクスの中に手を滑り込ませる。オナニーなんて何年ぶりだろう。恥ずかしい。けど、手は止まらない。僕は堪らなくなってクッションに顔を埋めた。

まだ酔ってる?とマットは笑いながら聞いてきた。僕はベッドに仰向けに寝て首を横に降った。とっくに覚めてる。僕はぶっきらぼうに答えた。僕は分からないと不安になる。マットがいなくてもいい日々を送っていたのに。今はもう・・・ マットはシャツを脱いで僕の上に跨がった。ベッドが軋む。僕はその音に我に返った。

「アダム。きみは可愛い。俺は同性にこんなにときめいたのは初めてだよ」

マットは僕の耳元で囁く。首筋にキスをしてくれる。その感触に僕は目閉じる。僕はぽつりと呟いた。

「この関係って、今夜だけ?」

ふと、目を開けるとマットは僕を見ていた。ふふ。と優しく笑って言った。

「アダムはどうしたい?」

 

「・・・っ、ふ、あっ・・・・」

僕は射精した。気付いたら左手で自分の乳首までいじっていた。今までオナニーするとき乳首なんかいじってなかったのに。僕はソファーから起き上がると右手の自分の精液をじっと見た。ソファーを見て、精液がこぼれていないのを確認すると、ティッシュで精液を拭いた。

(良かった。こぼれなくて)

「よくねぇよ・・・・何をやってんだ僕は・・・・」

僕はため息をついて、ティッシュを丸めるとゴミ箱に投げ入れた。オナニーなんて何年ぶりだろうか。軍にいたころ以来かな。 マット抱かれたことをネタにやってしまった。乳首なんて奥さんに触られてもくすぐったいだけなのに、抱かれたときに触られたことを思いだしながら触ったら気持ちよくてどうしようもなかった。 僕は再びソファーに倒れこんだ。もう駄目だ。涙が出そうになる。そして本当は、ペニスじゃなくて抱かれたときみたいに、尻の奥でいきたい。

「ああ・・・・クソッ」

逢いたい。 そう思ったとたん、ぽろっ。と涙が出た。1人呻いていると、スマートフォンに着信のバイブ。僕は特に何も考えずに電話に出た。着信が誰からも見なかった。

「ハロー」

『・・・何怒ってんだよ』

低く、心地よい笑い声とともにその声が聞こえてきた。一瞬時が止まった。息をするのを忘れる。相変わらず電話の向こうでは笑い声が聞こえる。外にいるのだろうか。車が通る音も聞こえてきた。何が起こっているんだろう?電話の向こうの「彼」は僕に優しく教えてくれた。

『きみ、ラインのアカウント教えてくれなかったし、寂しかったよ』

「ご、ごめ・・・ん」

僕はやっとのことで声を発した。

『謝らないで。警戒心強いとこも可愛いから』

「この番号って・・・・」

『監督から教えてくれたんだ。きみの奥さんが旅行していないってことも、風の噂で聞いたんだ』 そのとき、僕の家の呼び鈴が鳴った。僕が呆然としていると、彼は言った。

『早く中に入れてよ。アダム。きみに逢いたくて逢いたくて来ちゃった』

彼はいたずらっ子のように笑った。僕は慌てて玄関に走って、扉を開けた。 そこに彼はいた。マットが。ジーンズにシャツというラフな格好。髪の毛がくしゃくしゃで、幼く見えた。外の明るい日差しを背後に立っているマットはいつものようにハンサムで、優しかった。にひ。と彼は歯を見せてわらうと、両腕を広げた。

「アダム!俺に逢いたくて泣いてただろ。そう思ったからさ、来ちゃった」

僕は彼を家の中に引き入れると、ぎゅっと抱きついた。はは。とマットは笑った。

「きみはさ、すごくいい男だよ。いい夫で、いい俳優。でもさ、俺の前では」

僕の耳元で囁くマット。僕は目を閉じた。

「ただの可愛い女の子だよ」

僕は、うん。と頷いた。マットは僕の顎を優しく掴んだ。僕の顔をくい。と自分に引き寄せるとキスをしてくれた。僕とマットは何度もキスをした。涙腺が緩んでいた僕はまた泣いてしまった。マットは僕の目元に唇を寄せて、涙を吸いとってくれた。

「好きだ。きみが」

僕が言うと、マットは笑って頷いてくれた。僕も笑った。そして聞いた。

「なんだよ。風の噂って」 マットは、きりっ。と真顔で言った。

「俺の独自の調査網だよ」

僕は再び笑ってしまった。